COLUMN
2018.08.28
「自由への漂流」by Ape 第1話/死んだら新聞に載るようなロックスターに
文:Ape イラスト:清水 里華
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2018.08.28
文:Ape イラスト:清水 里華
自由に生きる。
きっと誰だって、出来ることならそうしたいと思うだろう。
しかし、それは一体どんな状態のことを指すのだろうか。
他の人がどう考えるかは分からないが、少なくとも僕にとっての自由とは、自分の時間を自分でコントロールするということだ。
漫画『北斗の拳』の登場人物である雲のジュウザは言っていた。
「おれは だれにも縛られねぇ 誰の命令もきかねぇ!! おれは喰いたい時に喰い のみたい時にのむ!!」と。
これこそがまさに自由な生き方のあるべき姿であり、誰だってこんな風に、他人から指図されることなく、気ままに、自分のルールの中で生きていきたいはずである。
では、自由な生き方を実現するためには、一体どんな職業に就けば良いのだろうか。
答えはきっと沢山あると思うが、若かりし頃の僕はロックスター以外に有り得ないと思っていた。
ロックスターは自由な職業だ。
ライヴ中に商売道具であるギターを意図的に叩き壊すと若者たちは狂喜乱舞し、ツアー先のホテルの窓から無意味にテレビを投げ捨てればステータスが上がり、ケータリングのカレーが辛いことに激怒して帰宅してもその行動が話題となり次の仕事が舞い込むのである。
一般的なサラリーマンがこれと同じことをしたらどうなるだろうか。
商談中に商売道具であるノートパソコンを意図的に叩き壊し、出張先のホテルの窓から無意味にテレビを投げ捨て、社食のカレーが辛いことに激怒して帰宅する。
どう考えても即クビであり、最悪会社に訴えられる可能性すらあるだろう。
一般的な常識と会社のルールにガチガチに縛られて生きるサラリーマンと、一般的な常識に囚われず自分のルールの中で生きるロックスター。
自由に生きたいのであれば、どちらの職業を選択すれば良いかなんて火を見るよりも明らかである。
そんなこんなで、高校生の時に僕は、進路を決めるための三者面談において、母親と担任教師の前で、ロックスターになることを高らかに宣言したのである。
あれから17年。
僕は念願叶ってロックスターになった。
というのは嘘で、今は自営でECサイトの運営やWeb制作などの仕事をしながら、ライフワーク的にバンド活動を続けている。
今にして思えば、当時の僕の読みは非常に甘かった。
ロックスターという職業は、希望者多数にも関わらず、実際にその職業に就けるのはほんの一握りという狭き門であり、さらにはその地位、名誉、収入を最期まで維持し続けられる人など、その一握りの中のほんの一粒ほどしかいないのである。
その狭き門を潜り抜けるための能力、努力が圧倒的に足りなかった僕が、その現実を突きつけられるまでにそれほど長い時間はかからなかったし、さらに言えば、僕が夢見ていたロックスター像は、おこがましくも、世界中の誰もが知っているような、死んだら新聞に載るようなロックスターであり、僕のように一人で外食も出来ないような小さな人間に務まる職業ではなかったのである。
分かった。僕がロックスターになれないことはよく分かった。
しかし、自由に生きたいのだ。誰にも指図されず、自分の時間を自分でコントロールして生きていきたいのだ。そこだけは譲れない。
そう思いながら、15年ぐらいかけて、様々な失敗や挫折や転職を繰り返しながら、今の自営という働き方に行き着いた。
今は自宅を仕事場とし、働きたい時に働き、眠りたい時に眠り、遊びたい時に遊び、食べたい時に食べ、飲みたい時に飲むという、結構自由な生き方が出来ていると思う。
ロックスターにこそなれなかったが、今でも並々ならぬ情熱を注いでバンド活動にも取り組んでおり、それが生きがいにもなっている。
このコラムでは次回以降、そんな僕の、自由を求めて漂流した15年間について書いていきたいと思います。
自由に生きたい人、ロックスターになれなかった人、会社を辞めたくて仕方ない人、雲のジュウザリスペクトの人、一人で外食できない人、などに読んでいただけたら幸いです。
1983年2月16日生まれ。
音楽活動として2001年より戦慄のオルタナティヴ・ロック・バンド『Very Ape』でヴォーカル兼ベースを担当。
自営で、アパレル&バンドグッズECサイト運営、プリンタブルTシャツ卸売、Webサイト制作などの事業を行っている。