COLUMN
2020.04.08
COLUMN
2020.04.08
フィリピンをうろうろしていた時のことだ。
とあるビーチのあるタウンにたどり着いた。世界中の観光客が集まるところ。
場所の名前は覚えていない。
ビーチには、観光客からおこぼれをもらう野良犬と、物乞いの子供達が常にいた。
わたしは毎日ビーチに出て食事をしていたため、子供達とも仲良くなった。
彼らはマダム、マダムお金ちょうだい、と言いながら、自分たちで作った楽器を演奏して歌を歌った。
私はチョコレート・バーを大量に持っていて、子供達に会うたびあげていたけれど、
「チョコレートはもういらないんだ。お腹が空いたよ」と言うから、食事を買ってあげてよく一緒に食べた。
現金は元締の大人に取られちゃうだろう、物乞いをするのは良い習慣ではないだろう、だけど、今お腹が空いているのだから、ご飯は食べなくちゃ。
私のバックパックは行き先を決めた事がない。ホテルの予約だってしない。
いつも行った場所で誰かと話して、より美しい場所を求めてタウンからタウンに写り、好きだったら好きなだけいる。ホテルは到着してから探す。
発展途上国はそれでなんとかなるんだよ。
そのフィリピンのタウンの、ビーチにあるバーでお酒を飲んでいたら、そこで演奏するバンドのギタリストが声をかけてきた。
「日本人?僕は日本で働いてた事があるんだ。」
彼の名前はラウェルと言った。歳は40台半ばくらいかな、ラウェルはバーで演奏するのを仕事にしており、けっこう上手かったと思うけど、とにかくセンスが無かった。
演奏しながら語りを入れるんだけど、それも「外国人は来る・・・そして外国人は去る・・・しかし、我々はいる、今日も・・・明日も・・・」「ここのメニューの・・・オススメは・・・魚・・・」等と、当たり前のようなことをソレっぽくゆっくりとしたギターソロに合わせて言う。
ラウェルは私に、うちはホテルなんだが、滞在しないか?息子が迎えにきてくれると言う。
私もまあ、見に行くだけ見に言ってみるよと言った。
迎えにきてくれた息子さんは、18歳、筋金入りのレディ・ボーイ、名前は「フェンダー・ギブソン」まじで「フェンダー・ギブソン」。
ギター好きのとうちゃんに付けられた名前。
ラウェルのうちは奥さんと、きれいなきれいな小さい娘さんたちとフェンダーギブソン君がいて、みんなとても優しくしてくれたので、なんとなくわたしも居ついてしまった。
彼はホテルだと言っていたが、別にただのホームステイだった。
昼はフェンダーギブソン君とミスコンを見て、どの子がビューティフルか話したり、小さい娘さんたちと絵を描いて遊んだ。
夜はラウェルの働くバーで、海を見ながらカクテルを飲んだ。
ある夜いつもどおり海でカクテルを飲んでいると、演奏を終えたラウェルがやってきて、昔の思い出話をしてきた。
「僕が日本にいた時、ホテルで演奏する仕事をしていてね、そこで働く女の子に恋をしたんだ・・・その子はユカと言ってね・・・」と言い、とろんとした目で美しい思い出を語ってくれた。
と、思ったら、ラウェルは私の手を握り、「ユカ・・・」と言ってキスを迫ってきた。
おいおい
ユカじゃねえ。そしてこういう人、海外でたまにいるんだ。
「日本人の子が好きだったんだ・・・」と言いながら、私にも迫ってくる人。
なんなんや、日本人女の魂は繋がってるわけじゃあないんだよ。
しかも奥さんも子供とも仲良くしてるじゃん、そもそも客じゃん、そこで迫る?
とりあえずまあラウェルのアプローチは拒否し、丁重にお断りした。
するとラウェルは、「そうか・・・君はヨーコ、僕はポール、混じり合えない運命さ」
というようなことを言っていた。
私はユカでもないしましてやヨーコでは決してない。
ラウェルを拒絶した後、気まずい雰囲気になったが、そのあとすぐ彼が「ねえ、僕の本当のヘア、見たい?」と言ってドレッドのカツラを脱いで、ぐちゃぐちゃでなんてことのない本当の髪の毛を見せてきたので、笑ってしまった。
もう、なんだよ、憎めない人なんだよ。
その後もまたラウェルの家に帰り、仏壇の、キラキラ光りながらくるくる回るブッダのスイッチをオンにして、一緒にYOUTUBEを見て過ごした。
けどやっぱり気持ち悪くなったので、私はすぐ別の街へ移動した。
「ホテル代」、けっこう多めに取られたぞ。
ちなみにこの町では、昼間ごはんをおすそ分けしていた犬たちにも夜襲われそうになった。
ビーチを走り逃げ回り、バナナを投げて気をそらして逃げた。それを怪しい男たちが、じろじろ見ていた。
フィリピンは治安が悪いから、夜の女性の一人歩きは注意。
猫島虎雄
アジアに恋しているジプシー、愛犬家。女