COLUMN
2020.04.15
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2020.04.15
20代、いろんな場所をふらふらしたし、あぶなっかしいこと沢山した。
人から出されたものもなんでも口にしたし、初対面の人と意気投合して一緒に飲みに行ったりもしたし、初対面の人の家に上がったりもした。
ホテルはいつもエリア最安のところに泊まっていた。海や山でハンモックの上で寝たり、野宿もまあ数回した。
少数民族の家にホームステイするのが好きで、彼らと一緒に自家製の酒も飲んだ。
運のいいことに、危険な目には殆ど合わなかった。
大概いつも気がつくと、全然知らない気のいいヒッピーやミュージシャンたちと、誰かの家でセッションをしたり、酒を飲んで終わる。
ただ一回、自分の不注意に後悔したことはある。
意図せずバッド・トリップしちゃったのだ。
東南アジアの田舎では、人々はドラッグと共に生きている。大麻はあちらこちらに自生しているし、阿片も作っているし、キノコだってあるようだよ。
それをレストランでメニューに出す場所もある。
私は当時のパートナーのダニーとカンボジアでアンコールワットを見て、(アンコールワットは世界で一番神秘的な場所。最高)そのあと小さい島にたどり着いた。
その島は本当に美しい自然以外何にも、何にもなくて、ホステルがひとつかふたつあって、白人ヒッピーたちがだらだら滞在しているような所だった。小説の「ザ・ビーチ」みたいなとこ。ほんとの楽園。
そのホステルのレストランは、ビーチに面してあって、最低限のこしらえがしてある簡素だけどラブリーなやつで、そこで私は食事をしていた。メニューは思い出せない、野菜の炒め物だったと思う。
ふと気がつくと、なぜか頭がぼおっとして、箸を持つ手が遅くなる、え、おそい、うごかない、あれっとおもったら、まぶたに落ちた日の光が、花火になってとろおっと溶けた
ヤバイ、わたし、何かに酔ってる。こいつはやばい。ちょっとほんとに、なんかやばい。
グリーンの、野菜の炒め物、おいしい。
なんだろう、何を口にしたんだろう、酒も飲んでない。
食事前にレジ横で買ったクッキーを食べたせい?
そういえばここのレストランは、客もウエイトレスもジョイントを吸っている。
ウエイターの作ったジュースを飲んでいたから、それかもしれない。野菜炒め?
オムレツみたいなの食べたっけ?
調子はすこぶるおかしい。私の体のリモコンを誰かがとって、動かされている感じがする。
乗っ取らないで、おねがいです。
どうにもおかしいので、部屋に戻ることにした。水を飲んで寝よう、そばにいるから大丈夫。とダニーが言ってくれて、彼も一緒だから、怖くはなかった。コロンビア人だし、こういうことには慣れているのだ。
部屋に戻るまで、ビーチに面したちょっとした山道を歩く道のり、全然現実感がなかった。
体は誰かに操縦されている。私はそれを見ているだけ。自動操縦のガンダムみたいなのに乗って、ちょこんと見ているだけだ。
借りてるバンガローの部屋に着いたけど、そこではどうしても眠れなかった。だって大きいヘビがベットの上に、とぐろを巻いて眠っていたんだもの。ベットにはヘビのうんこもある。
わたしはしいっと、ヘビを起こさないように、隣のバンガローに移った。
ダニーは後で、ヘビなんかいなかったよと教えてくれたけど。
妙なのは、ダニーと私は常に同じものを口にしていたはずなのに、彼はなんともなかったことだ。
とにかく、わたしはむちゃくちゃレロレロの状態で、手を伸ばすと腕の肉がどろどろ溶けてボタボタ落ちる。
ベッドに横になって目を瞑ると、目の前にヴィヴィットでカラフルな沢山のレールが現れる。レールはつねに動いてて、そっと触れると手をもっていかれる。
指がレールにはまってしまって、複雑に動く。右手も左手も。
動きたくないのに動いてしまう。目がぐるぐる回る。
これは確実に、何かサイケデリックドラックではないのか。いかにもそんな、カラフルな曼荼羅のイメージがぐわんぐわん動く。
わたしはベッドでじっと目を閉じながら、ひたすら耐えて、水を飲んで、波が去るのを待った。
となりにいるダニーの体が熱くて熱くて、体の一部が燃えていると思った。
私がさんざんな目にあっている間、
ダニーは妙な幻覚はなかったらしいけど、熱を出していて、一晩中下痢をしていたらしい。
やっぱり2人で変なものを食べたんだよね。
一晩寝たらすっかり直った。でも結局原因はよくわかんなかったけど、レストランに戻ってレジの人に「このクッキー何入ってるの?」と聞いたらニヤニヤしていた。やっぱり、レジ横のクッキーが怪しかったよね。
そんであれから口にするものには気をつけてる。あんとき神様に約束したからね。
東南アジアへの愛は消えない。
(このお話はフィクションです、実際の人物、団体には関係ありません)
いちおう書いとこ。
猫島虎雄
アジアに恋しているジプシー、愛犬家。女