COLUMN
2020.05.20
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2020.05.20
英語が母国語の人によく、なぜあなたはラテンアメリカ訛りの英語を話すのか?と聞かれる。
それはダニーと一緒に暮らしていたから。
ダニーのことについて書こう。
時々日本の女の子から聞かれる、「外国人のボーイフレンドってどう?」って質問、
答えるならこう。「人生に起きたことの中で一番ロマンチックなことかな」。
コロンビア人のダニーと一番初めに出会ったのは、中国語クラスでのこと。
うわ、ジャングルブックの、モーグリ(少年)がいる、と思った。
いっつもみすぼらしい格好をしていて、髪の毛も自分でぐちゃぐちゃに切っていて、
それでも彼には、人から愛される愛嬌と華があった。
シャイだけど、ダニーは人が大好きで、最年少ってこともありみんなの弟って感じで可愛がられていた。
中国語クラスの終わりに、みんなでお茶をしていたときのこと、ついわたしが彼の顔に見とれて
「ビューティフルだねえ」と言ったら、彼は真顔で「美しさっていうのはね、感じるものの内面に存在するんだよ。だから美しいのは僕ではなくて、君なんだよ」と言ってのけた。
すごい。こんなキザなこと、聞いたことない。
しかも隣でアメリカ人のアダムが「そうだそうだ」と言っていた。
アダム、名台詞に便乗するな。
しばらくの間、ダニーのことはかわいいみんなの弟だと思っていたけれど、ある時ダニーがバーで歌を歌ってるところを見ちゃったんだ。
そんでその、なんていうかなあ、トム・ウェイツを若くしたような、ちょっと汚れた声とその力強さにやられて、好きになっちゃったんだよねえ。単純だなあ。
小さくて少年みたいな見た目のくせに、すごいでかいエネルギーを放出する、まさに野生児。
それからすぐ、うちに来て、と誘った。ダニーが来てくれない日はダニーの部屋まで押しかけた。家がとても近かったので、枕を持って夜な夜な現れる私を、ダニーは黙って枕ごとハグした。
私のしつこいアタックが実り、わたしたちはすぐ毎日のように一緒に過ごすようになった。
初めて愛について話し合った時に、彼はこう言った。「僕にとって、愛はクラウドのようで(これは雲のことなのか、果たしてiクラウドのことなのかは解らん)、自由に広がっていて、全体を見ることも掴むこともできないけれど、一部を君にあげる。」
ダニーは、ポリアモリー(複数愛主義者)で、すこしばかりバイセクシュアルだった。
ダニーと一緒にいる時、彼の視線が他の女の子のゴージャスなお尻や、ブロンドヘアに行く、
そんなことを「今あの子のこと見ていたでしょ」と指摘すると、「きれいな尻を見る、足を見る、美しい夕日を見る、木になる果物を見る、空の星を見る、そういうことさ」と言う。
世界は美しくて、困ったねえ。
そんな諸星あたる君なダニーだったけど、彼は私のことを一番愛していた。底抜けに愛していた。
毎日ぐちゃぐちゃな顔で起きる私を笑いながらハグして、おでこから足まで100回キスをして、君は綺麗だなあ、スペシャルだなあ、ハグできるMt富士だなあ、ブッダだなあ、セニョリータ・カタツムリだなあ、LOCA(スペイン語でクレイジー女)だなあ、と言った。
私はあんなに愛情深く、またあんなに愛情表現が豊かな男を見たことがない。
よく、サルサやメレンゲなんか、ラテン音楽をかけて、ダンスを教えてくれた。
リズム感のないわたしを笑いながら、くるくる回してくれた。
へたくそだけどそれでも愛する人と踊るのが一番すきなんだ、と言った。
スペイン語と日本語、お互いの言葉を教えあった。英語は彼のほうが上手く、中国語は私の方ができた。世界やラテンアメリカについて、いろんなことを教えてくれた。コロンビアや日本にも旅行して、互いの故郷を見せ合った。
ごくたまに、お互い別の人とセックスをした。そういう時は詳細も報告しあった。
誰としたのか、何に惹かれたのか、何をしたのか。
けっこう悲しくて傷つくものだけれども、「人が出会って関心が一致して、セックスするあの美しい瞬間を、相手から奪う資格は誰にもない」という意見は一致していた。そして「そんなことは私たちが二度と会わない理由にはならない」という意見も一致していた。
二人ともお互いを愛しながら、自由を尊重し合い、また自由を謳歌した。
長い年月が経ちお互い成長し、いろんなことが起こり、価値観が変わり、私たちはどこか近くにいるようで、でも物理的にも心理的にもとても遠い存在になってしまった。(異国の人との関係っていうのは、住む場所がどう、仕事がどう、ビザがどうのですぐ離れ離れになってしまうんだ。あんなに遠い国から来た人と、一緒にいられた時間は奇跡のようなものだ)
でも彼は今だに私のことをどこかで愛していると思うよ。
愛にはリミットはなくて、ただ拡張するのみらしいから。
猫島虎雄
アジアに恋しているジプシー、愛犬家。女