COLUMN
2020.05.06
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2020.05.06
登場人物が死ぬ話は好きじゃないけど、これは仕方なくそういう話。
わたしの中国時代の重要人物の一人に、ベルギー人のウィリアムがいる。
ウィリアムは背が高くて、キリンみたいな目をした優しい人で、髪の毛を長く伸ばして編んでいる。たくさんの言語を喋るスマートな言語マニアで、いろんな楽器を演奏することができるミュージシャンである。
そのウィリアムが、何人かのミュージシャンと一緒に、友達の結婚式があるから雲南省へ旅行しようと言ってきた。
わたしはミュージシャンじゃないし、実は音楽はあまり興味がないんだけど、なぜかいつも気がつくとミュージシャンたちと酒を飲んでいるのだ。東京でもそう。彼らはコミュニケーション能力が高いし、たいがい笑いのセンスもキレがあるし、一緒にいて楽しい。
そこで私も、一緒に連れてってもらった。結婚式の主役はアイオンという、中国でも有名な少数民族×レゲエ・ミュージシャンらしい。もちろん知らない人だけど、誘われたから行っちゃおう。
いちおうその、アイオンさんに渡すために、「東京バナナ」みたいな、「白い恋人」だったけかなあ、そういう、ザ・おみやげをもって出発した。
白人ミュージシャン達が中国国内を移動する姿は目立つ。もちろん私は「通訳」だと思われて、こちらのVIP達はどなた?とちょいちょい聞かれていた。(一番中国語ができたのは、っていうかほぼネイティブだったのは、アメリカ人のジャックだったし、イーサンもウィリアムも私より全然上手かった)
なぜか全然知らない人も寄ってきて、「あなたたちはスターですか、サインください」と言うから、私も堂々とサインした。
高速鉄道に乗って杭州から昆明まで行き、それからバスや車を乗り継いで雲南省のとある村に到着したのだけれど、それはそれはヘンな場所であった。
まず、私たちは滞在期間中、ほとんどお金を使わなかった。
なぜかいつもどこかで誰かがご飯を食べさせてくれた。常に食事会があり、そこに呼ばれて食べた。しかも理解不能なのは、最後まで誰がお金を出しているのか全くわからなかった。
けっこう立派なホテルに泊まらせてもらったけど、ホテル代も払わなかった。
地元の若者も、ただで食事をしていた。働かず、好きな音楽をやっているらしい。
こうやってご飯を食べられるので、生きていけるらしい。
中国人のおもてなし文化というのは、熱烈なものがあるのは知っていたけれど、一体これはどういうことなんだろうか。
(中国にいると、誰がお金を出したのだかわからない会食ってのはけっこうある。みんな特に、申し訳なさそうにお礼を言ったりしない。他人のためにお金を惜しみなく使えるということは、中国人にとって人格を図る一つの基準なのだ。わたしもいつか、そうなれたらいいけどな。)
地元の有力者が、村人の生活をサポートしているのだろうか。
それともこれが社会主義ということなんだろうか。
とにかく、私が知っているお金の動きとはまったく違う動きをしていたのは確かだった。
ちなみに雲南省の田舎の人たちは、レストランでも大麻を吸っていた。中国は薬物の法律が厳しいというけれど、ここはもうラオスとの国境、いろんな民族や風土が混じり合っている。
アイオンの結婚式は最高に特別だった。
宴会場で円卓回して食事して、でもそんなのはサクッと終わらせて、夜は一晩中、野外コンサートをやった。
それは簡易的で、手作り感あるステージだったけど、すごく多くのミュージシャン達が出演した。大概は独特の音感と歌唱法を持つ、地元の少数民族の人たちと、そこからネットで情報を得て、地元の音楽にレゲエやらファンクやらテクノやらロックやらなんやら、現代的な要素を組み合わせて自分達流にアレンジした若者のバンドだった。
食べ物や酒も沢山振舞われた。トイレは古き良き、ニーハオトイレだった。
あの奇妙な夜のことは忘れられない。聴いたことのない音楽だったもので。
わたしは音楽はあまり聞かないけれど、強いて言うなら聴いたこのないものが好きだなあ、
次どう動くか予想を裏切ってくれるようなものが好きだ。
中国の現代文化ってさ、一見つまらなそうに見えるかもしれないけど、でも本当はすごく豊かなんだよね。56の民族がいて、それぞれのカルチャーがある。
アイオンが言っていたことで、忘れられない事がある。
南米の少数民族の歌を聴いたとき、これは自分もわかると思ったそうだ。この歌と、この言葉を知っていると感じたんだって。
南米は中国の裏側だけど、南米の田舎と東南アジアってそっくりなんだよね。
たぶん赤道に近い山の上の村というような、地理的条件が一致しているんだと思う。
ちなみに、南米の原住民と、東南アジアの人たちって顔も背格好もよく似ているんだよね。
音感と地理って関係あるんだね。
アイオンはこの数年後亡くなった。時々あの最高な結婚式のことを思い出すけれど、なんかどれも、現実感がない。
猫島虎雄
アジアに恋しているジプシー、愛犬家。女