COLUMN

2020.04.22

「世界中の様々な場所と、出会った人、その思い出」 by 猫島虎雄 第4回/ベトナムのSONG

ベトナムの田舎は、わたしが見てきた中でも特別美しいところの一つだ。
海の上で水上生活をしている集落や、(水上生活の家のトイレは世界一美しいトイレだった!そのまま海に垂れ流しなんだけれど、透き通った水の下に魚が泳いでいた)
海の上にごつごつ斜めにそびえる、巨大な岩山を見た。
蛍が群れをなし、巨大な幾何学模様に光のパターンが点滅するのを見た。
光る青虫を見た。

東南アジアや南米は赤道直下のため、空の青がヴィヴィットで、雲もギュッて硬くって、植物なんかも日本の数倍でかくって、いるだけで自然の脈拍がどくどく伝わってくる。時々それがすごく恐ろしく、同時に生きる元気をもらえる。

ベトナムを南から陸路で移動し、中国との国境を越えるつもりだった私は、最後にサパという、標高高い山の上の街にたどり着いた。

サパに着くと、早速多くの少数民族の女性たちが、うちにホームステイしないかと声をかけてきた。少数民族の女性たちは、紺色にカラフルな刺繍が入った独特の衣装を着ており、足もとのレッグ・カバーにはビーズやポンポンがぎっしり、キラキラしていた。一時期のハラジュク・ガールズのようだ。

少数民族のホームステイには興味があったから、そこで何人かの女性と値段交渉をした。観光客と見ると強気でふっかけてくる人が多かったけど、女の子が一泊千円食事付きでどうかと聞いてきた。それが当時15歳だったSONGソンだった。

この子なら、とても信用できそうだし感じもいい。一緒に過ごしたいなと思い、付いて行ってみることにした。

ソンに家に行きたいというと、パパッと携帯を取り出し誰かに電話し、30分後に迎えのバイクのおじさんが来た。このおじさんのバイクの後ろにソンと2人でぴったりくっついて乗って、さらに岩だらけの山道を登った。こんなとこバイクで走れんの?って岩だらけの道で、わたしは何度も何度も死ぬかと思った。
でもその、山の上で見た、渓谷が遠―くまでブルーとグリーンが透明になるまで延々とグラデーションになって消えてく景色は、最高に幻想的なものだった。雲は山より低い位置にあった。

ソンの家もまた、非常に幻想的なものだった。
土と藁でできた小屋、お母さんと、泥だらけの裸の子供達がたくさんいる。電気もないしトイレもない、でもテレビだけはあった。(ってことは、電気あったのかなあ)

そして、ソンの家の裏は、自然発生した、広大な大麻畑であった。
ソンのお母さんがそれを狩り、機織り機で織って布製品を作る。

私はこんな光景を見たのは初めてだった。だけど彼らの生活は自然と共にあって、大麻は自然そのものだった。しかも生活を支える重要な植物の一つだ。

わたしが驚いていると、ソンと子供達はそれをパッと折って、ハートの形や馬の形に編んでくれた。
とってもかわいいプレゼントだった。けど私はこれを日本に持ち帰ったら逮捕される。
そんなのおかしいよね、だってただの自然植物だよ。
この時の経験は、私が日本の大麻取締法の矛盾について考えるきっかけになったけれど、それはおいといて。

ソンはしばらく家の周りを案内し、家の中に戻った。民族衣装を脱いで、Tシャツとスカート、ベースボールキャップを見につけたソンは、ふつうの街の女の子と同じだ。民族衣装は客引きの時や重要な時にしか着ないらしい。
携帯電話だって持ってるし、おなじ村の友達といっつもメールしてる。

ソンと一緒に火を起こし、インスタント・ラーメンとトマトと筍の煮たのを作った。化学調味料だってたくさん入ってるけど、最高においしかった。
ハッピー・ウォーターだよといって、ソンは自家製の酒をすこし飲ませてくれた。
トイレなんてないから、そのへんの茂みですること。そしてそれが大麻の肥料になる。
(わたしは支持する。ぴいぴいいう奴はビンタ)

15歳の女の子が観光ガイドになり、大麻を触り、自家製の酒も作る。そんなのは都市のルールに全く違反してること。でもここでは関係ない。彼らには彼らの自然とともに歩んできた暮らしがある。ここは「ベリーベリービューティフル(byソン)」な場所だし、これはこれで完璧な暮らしだ。(もちろん、貧困という問題は深刻だけれども)

ソンは自分のことベトナム人と呼ばないでと言った。自分はモン族だと。
英語は小さい時から観光客にひっついて、ガイドをして身につけた。
ソンは将来、さらにもっとすごいガイドになって、世界で一番美しいこの場所を、多くの人に見せるんだと言っていた。体じゅうにお父さんが作ったアクセサリーをつけ、褒められるとその場で売った。

私たちはハイキングをし、沢山おしゃべりをした。ソンは私の恋の話を聞きたがった。

ソンは元気かなぁ
ソンから買った金と銀の2つの指輪は、東京でもかわいいねって言ってもらえるよ。
次行くときはあの頃よりお金持ってくから、いっぱい買ってあげられるよ。

猫島虎雄

PROFILE

猫島虎雄

アジアに恋しているジプシー、愛犬家。女