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2021.07.16

【日本語版】world's end girlfriend × KASHIWA Daisuke 対談(前編) | BLOOM ~音楽で希望を咲かせるということ~

フラワーアート:相壁 琢人(ahi.) 撮影:田中 生(ahi.) 取材・構成:清水 里華(FREEZINE)
KASHIWA Daisuke 衣装提供:石岡 美久(algorithm)

渾身の52分に込めたさまざまな思い。

編集部(以下、編):KASHIWA Daisuke(以下、柏)さんが2020年12月に、world’s end girlfriend(以下、weg)主宰のレーベル「Virgin Babylon Records」から9枚目のアルバム「program music III」をリリースされたタイミングで、wegからインタビューのお申し出があったんですよね。でも、柏さんとしては、言葉で作品について語りたくないという思いがあった。そこで、FREEZINE編集部にwegとの対談企画プロデュースのお誘いをいただき、この企画が実現しました。

柏:リリースのタイミングでwegより「インタビューどう?」っていう話をもらったんですけど、その時は作品を言葉で説明することがしっくりこなかったんです。考えてることはたくさんあったんですけど…ただ、コロナ禍で自分なりに色々な思いを持って作ったので、wegに対談でどうですか?と持ちかけたのがスタートでした。

編:そこで、お二人の対談にふさわしいテーマとして、「BLOOM ~音楽で希望を咲かせること~」を設定し、「ahi.」のフラワーアーティスト相壁 琢人さんにお二人それぞれの音楽からインスパイアされたフラワーアートの作成を依頼し、同じく「ahi.」のカメラマン田中 生さんに、とある廃墟を背景にしたフォトセッションを行っていただきました。

柏:アイキャッチも面白いものにしたくて。wegは黒い服で来るって思ってたんで、逆に自分は白い衣装だったら面白いかなと。ちょうど「algorithm」の石岡 美久さんと仕事してて、彼女が作っている衣装がヤバかったので貸してもらえないかって聞いたら、作りますって言ってくれて。凄いの届きました。また相壁さんにはwegは赤系、僕は青系の花でイメージ作ってもらうと、二人のコントラストが際立って良いかも、っていう話もしました。形もwegはインパクトのある塊、僕は流れる感じ。色も形もお互いの個性を表現してもらって感謝です。

weg:廃墟で撮影するっていう前提があったから、そこに花があるとコントラストが出て良いものにはなるのは分かってたから、花に関しては相壁君に任せてて、その廃墟の中での特定の場所っていうか、撮影にハマる場所のセレクトは自分でやりましたね。

編:光と影、絶望と希望、そんな二律背反をシンボライズしたかのような、素晴らしい作品になりましたね。ところで、今回の対談テーマである「BLOOM ~音楽で希望を咲かせること~」についてお話を伺ってみたいです。

柏:希望っていうか、なんだろうな…対談したかった目的として、まず感謝の念がありました。僕が活動を始めてからwegはずっと近くにいて、でも遠い存在で。世界中いろんなアーティストがいれど、気付けばwegの背中を追って今までやってこれました。また家族や仕事関係の人、音楽仲間、ファンの方々、いろんな人の影響で今の自分がある。そのたくさんの恩を改めて感じた時に自分には何ができるんだろう、って考えたら、次は頑張ってる若者や新人アーティストとかにそれを贈ってあげたい、それが種としての恩返しになるんじゃないかなって考えました。別に希望じゃなくても、感動でも野望でも悔しさでも…何かエネルギーを届けたい、次世代に繋ぎたいという思いです。曲名の『sons』っていうタイトルもそこから付けました。これがコロナ禍で自分が感じたことで、今回一番言葉にしたかったことです。もちろんプライベートな思いもあるんですが。

編:今回のアルバムを振り返ってみて、しっかり今の思いが詰まったものになりましたか?

柏:まだ答えは分からないですけどね。ただ聴いた人が、表現する事は自由なんだ、型に囚われずに自分の好きなことやっていいんだ、自分の世界を作るんだって思ってもらえたらいいなとは思ってます。

編:レーベル代表のwegとしてはいかがお考えですか?

LAST WALTZ | world's end girlfriend | Virgin Babylon Records

weg:音楽が希望を咲かせるか?誰かに希望を与えるか?どうかはあまり興味がなくて。自分が一番いいと思ってるものを思いっきり自由にやっていった軌跡っていうか、作品や行動を見せることによって、後の音楽家でも自分の子どもでもいいんだけど、それによって自分ももっと好き勝手に自由にやっていいんだって感じてもらえれば嬉しいかな。

編:そのマインドは柏さんにも受け継がれていると感じました。

weg:結局、俺もそういった誰かの姿を見て自分はこうなってるから、それは自分も順番で受け継いでるっていうか、そのくらいのことかな。

編:今回の柏さんのアルバムも、1曲で51分超えという、形自体がすでに自由というか、型破りなのですが、そこに込めた思いは何ですか?

柏:例えばコンピューターやDAWソフト、プラグインとかの開発者の知識と技術ってすごいですよね。でもそれが手抜きや楽の為というか、割とネガティブな方向に使われてる事が多い気がしてて。自分もそうなんですけど…でも開発者へのリスペクトとして、それを引出したいっていう気持ちもありました。環境はどんどん便利になって怠けることにも使えるけど、もっとポジティブに面白い事に使うのが本来の目的だと思いますし。今は何百トラックも使えて何時間の曲でも作れるような環境があるんだったら、それを生かす表現がしたいなと。

編:その域にいけるのはすごいです。柏さんにはエンジニア気質があるんでしょうね。

柏:そう、超いい車なのにスーパーへの買い物だけ、的な感じがあって。このマシン、このパワーだったらどこまでいけるんだ?ちょっと限界にチャレンジしてみたいよね、みたいな。コンピューターも進化してて、昔じゃ難しかったこともできるわけじゃないですか。それを使わないのはすごくもったいないというか。パソコン可哀想って思います(笑)サグラダ・ファミリアみたいな圧倒的な時間とスケールを感じるものって無条件に感動するじゃないですか。その感覚って普遍的な気がしてて。そういうものが僕は好きです。

17年にわたる交流の中で初めて語られる、
互いの人生観、音楽観。

編:さて、17年ものお付き合いをされている柏さんとwegですが、この機会に柏さんからwegに聞いてみたいことはありますか?

柏:うーん、音楽的なことは聞かないよう僕は努めてしてるんですけど…一つ知りたいのはwegのメンタルの強さですね。環境や時代に振り回されることもなくいつもすごく安定してるし、それが頼もしさでもあり。コツみたいなものがあれば聞きたいです。

weg:基本的に別に人間は良いものとは思ってないっていうか。どちらかというと駄目なものだと思ってるから。

編:それは人を信用してないっていうことですか?

weg:信用してないっていうか、信じることも、裏切られることも、どちらも人間的だと思ってる。自分が人間を好きな部分は駄目でしょうもない部分もあるし、美しい部分もある。子供の頃から人類の歴史とか、いろんな人が辿った道筋を眺めては「まあそうだよなあ」と思ったり。

柏:なるほど。僕は割と性善説なので、基本皆いい人で分かりあえるって思ってしまうんですよね。でもやっぱりいろんな思いや価値観があって、人とぶつかったりすれ違ったりすることがあります。それが処理し切れない情報になると、気分が左右されてしまうっていう事が多くて。だから期待しない事が大切かなって今聞いて思いました。wegと知り会ってもう17年になるんですけど、出会った頃から全くぶれてないというか、全然変わらないんで。

編:それはすごいですね。

柏:頼もしくもあり、ありがたくもあり。僕は人の感情に左右されるタイプなので、見習いたいです。見習ってどうにかなる問題でもないんですけど。

weg:けど、そういうところも含めて柏君という人間の魅力的な部分の一つだから。例えばその不安定さや几帳面さは柏君の音楽を輝かせる強みの部分でもあるし、弱点となる部分にもなる。表現においては短所も長所もどちらも良いものにもなり、悪いものにもなる。何かを作品化するっていうのはそういうことだから。一般的なものから外れてようが、不安定だろうがそれはそれで良くて。

柏:ありがたいです。

weg:音楽家で何か問題を抱えてるやつはいっぱいいるけど、それを作品化できてれば最高だよね。そこに魅了されたり救われたりする人もいるし、また新たな音楽が生まれたりもあるから。

柏:初めてそういう話を聞きました。今までレーベルで作品もお世話になりつつ、アーティストとしても関わってきて、でも特に僕に対しての個人的な意見ってwegから聞いたことがないので。

weg:聞かれないといちいち言わないからね。なんだろうな、柏君がすごく感情的な表現をしようとするときにも圧倒的にきっちりせざるを得なかったり、様々な音楽スタイルも理論的にもしっかりやりたいと思ってしまうのも柏君の個性であり面白さであるし、それによって失われてるものもある。それと似たようなことは自分にも他の音楽家に対しても言えるし、表現に求めてるものと失ってるものは裏表一体でもあるというか。

柏:それが個性にもつながってるっていうことですか?

weg:それが独自性や魅力になる。

出会いのきっかけから
作品作りの動機まで。

編:ところでお二人の、そもそもの出会いのきっかけとは?

weg:最初、福岡のライブとか?

柏:ですね。僕ソロ前は福岡でバンド活動していたんですけど、wegと対バンする機会があって。ファンだったので、イベントの前にメールを打って、よろしくお願いします!と。まだ僕が24、5ぐらいの時かな。

編:そこからどうやって仲良くなったんですか?

weg:福岡にライブ行った時に一緒に飲んだり。

柏:そうですね。僕はその後バンドが離散しちゃったので、一人でやるかってMac買ってLogicで曲作って、wegに聴いてもらってたり。

weg:それで曲面白いなと思ってたから、その後もつながってたって感じ。

編:ちなみに聴いていただいた曲って覚えてます?

柏:「april.#02」。ファーストアルバムになった「april.#02」を作ってwegにデモ送ったら、「もう俺から言うことは何もないよ」って返事もらって。「やばい、見放された」と思いましたね(笑)

weg:そんなこと言った?…今予想すると、ある程度完成されてるし、wegの影響受けてるっていうのも分かった。でも、自分の長尺の曲中には、きっちり打ち込んだ部分をあえて崩すような生々しい歌やサックスを入れてて。柏君のデモ曲には、そういう部分はなくきっちり打ち込んだ長尺の曲だった。だから、この方向で行くんだったらもう一段階追求しないと面白くはなんないし、ここで俺がアドバイスしちゃってよりwegに近いものになっちゃうとそれはそれで柏君自身にとっては良いことではないので、特に言うことはないなって、多分そんなこと思ったんじゃないかな。

柏:なるほど。自分的には割と意図的な部分でしたね。歌とかサックスとか生モノがつなぎの役目を果たすってことだと思うんですけど、僕は逆にバンドで生モノしかなかったので、打ち込みやデジタルエディットのクールさに憧れや魅力を感じてて、それを前面に出したかったんです。無い物ねだりというか。その後wegと飲みの中で音楽観を聞いたりして、ちょっと具体的な内容は伏せますけど…wegが話してくれたことと、僕が頭の中で描いてたことがシンクロして表現のベクトルが近いんだって感じました。でも僕はまだソロ活動始めてない時期だったので、嬉しいと同時にやっぱり悔しさもあって。

編:そのwegと共通している音楽観って、いま言葉で表現できますか?

柏:そこは言葉にしちゃうとアレなんで…

weg:そうだね。

柏:僕が思い描いた世界はバンドでは表現できなかった。でもwegはそれを既に自分の形に表現してて。なんでしょう、複雑な感情ですよね。憧れもあり、悔しさもあり、なんか愛憎が入り混じった感情を持ちながら日々悶々と。

編:悔しいって思えるのもすごいですよね。

柏:正直悔しさですね、一番は。本当にもう暴れ狂うぐらい悔しかった。

weg:そうそう。俺はそれを多分福岡にいる時に柏君から聞いたんだよね。泣きながら車の扉を閉めたって(笑)

柏:それは言ってました。そうだ。

weg:すげえなと思って。その感覚は俺にはないからどういう感じなんだろうなと。それはそれでやっぱり面白いなと。柏君の面白さだなと。

柏:なんだろう。頑張ればどうこうっていうレベルじゃなく、圧倒的でした。当時のDTMや宅録機材って今と比べものにならないぐらいできることも少なくて、曲云々より方法論としての仕組みが、自分としては大学の試験よりも難しかったので、それをもう飄々と作品に残してるwegに対して圧倒的な敗北感というか、それが当時めちゃくちゃ悔しかったです。本当に。だから特にwegの2nd.や3rd.あたり、当時日本で一番僕が聴いてたくらい聴いてました。もう本当にずっと聴いてました。

編:その後どうやって勉強されたんですか?

柏:ある瞬間、パッと開けたんです。全てが繋がったというか、いろいろな事が瞬間的に理解できました。そこからはもう作るだけで作品がどんどんできるようになっていきました。早かったです。

編:面白い。ところで、最近すごい気になることがあって。何かの音楽に対してとかミュージシャンに対して圧倒的な共感とか、「これは!」って思う瞬間ってあるじゃないですか、若い頃とか含めて。さっき言葉にしてみてくださいってあったと思うんですけど、言葉にすると確かに難しいんですけど、お二人に何とか表現してみてほしいなって。

weg:俺はめっちゃくちゃ好きな映画とか音楽、小説などに出会ったときに、この作品のことを自分は痺れるほど好きなのは分かるけど、何が好きなのか分かんない。なんで泣けてしまうのかわからない。って感覚が一番しっくりくるかな。

柏:僕の場合は、すごい好きなんだけど自分だったらもっとこうしたいとか、失礼な話ですが。

weg:すごい。その感覚は全くないな。

柏:だから僕は自分の聴きたいものを作ってるっていう感覚が強くて。音楽の自給自足です。世の中にいろんな音楽があれど、100%自分の脳内ワールドと合致するものってやっぱりなくて。なら自分で作ろうって追い求めるみたいな感じです。

編:…ちょっと恋愛観とかぶるんですかね?なんで好きか分からないけど恋に落ちるみたいなところと、俺は絶対にこうするというところと。

柏:どうなんですかね。恋愛観…分かんないです。

weg:恋愛観というか愛においては、相手が自分のことを好きでも嫌いでも、一緒になろうがなれなかろうが関係ない。その人が生きたいように生きれて、幸せであることが一番。自分にとっての愛情、愛っていうものはそういうもので。それは音楽に対してもちょっとそういうところもあって、だから音楽が音楽として一番いい状態で生まれ存在してるんだったら、別にそれは自分の作品じゃなくてもいい。

編:なるほど。柏さんは愛についてはどう考えますか?

柏:よく分かんないですね。僕は愛とか愛情とかっていうのがよく分からないです。でも話を聞いてて、wegってすごく俯瞰的で自分自身すらも客観視してる気がします。僕は主観的であり、性善説だと言いつつも個人主義者なんですよね。だから自分のテリトリーに人が入ってくることを嫌がってるのかもしれない。

編:いいなって思えるものに対しては、素直にいいなって思えればイコール愛、的な気持ちの持ち方っていうのはあるわけですね?音楽にせよ人にせよ。

柏:そういう視点で考えたことがないので難しいですけど。もちろん好きな音楽もたくさんありますし、でも自分の中で完璧って思うものは…

編:そこはそうなんですね。

柏:です。ただwegの3rd.(「dream's end come true」)は僕には至高の作品です。なんだろう、別格です。僕は高校生の頃にプログレ好きになって、そこからノイズや現代音楽の影響を受けた感じなんですけど、そのすべてが含まれてる。素晴らしいアルバムです。それでもその先の可能性を追い求めたくて、自分の手で自己満足のために作りたい。そう、自己満足ですね、僕は多分。

編:作品作りの動機の部分ですね。wegの作曲の動機は何ですか?

weg:最初は純粋な遊びだったけど今は信仰みたいなものになってるかな。子どもの頃から自分で自分だけの神さまをつくるっていうのが好きだったから、音楽自体を神と見立てて献身するってところはあるんです。ま、単に自分を捨てて捧げて作るのが俺は気持ちいいだけなのかも。最上の音楽を目指して俺自身も人生かけてやるけど、その最上の音楽は別に俺の音楽じゃなくても構わないというか。自分は音楽の大きな流れの小さな小さな一部を担ってるだけ。

編:なるほど。

weg:意識的でも無意識的でもそれはこれまで色んな音楽家がやってきたことで、限られた人生の中でいい音楽を作ろうと追い求めて、その音楽が次の世代に続き、と流れはつながってる。音楽というでっかい木があって深い根があって、その先に枝がぶわーって何百何千に分かれていってる中、俺らがやってるのはこの細い枝の小さな一角っていうか、ここを俺が担当しますよっていう話。そこでめちゃくちゃいい枝を作れば、その後、誰かがめちゃくちゃまたいい枝を作り最終的にはパっと花が咲くかもっていう。基本的にはそんな感じ。

柏:やっぱり根本的に違いますね。

編:柏さんは人間らしいですよね、本当に。理性と狂気のハイブリッドっていうか。

柏:主観的ですよ、僕は。

編:主観的っていうか。やっぱすごく人間らしいなって思います。

柏:確かに、wegはちょっと宇宙人っぽい(笑)

編:分かります。達観してるというか、そこのラインが。

柏:長年お付き合いしてても掴みどころがない、っていうのが正直なところで。本当に不思議な人です。

コロナ禍を経て、
自分たちがやるべきこと、得られたこと。

編:ちょっと話題を変えさせていただきますが、コロナ禍以降、お二人にとってどういう変化があったか伺いたいです。

weg:コロナになって明らかに世界は変わったから、新たなにやるべきことをやっていくって感じかな。実験的なことも含めいろいろやりましたね。

編:試験的な試みをいろいろされてましたよね。

weg:コロナの時代になって、これまで心に響いてた曲が急に力を失ったり、変わらず魅力的な曲もあったり、オンラインでのライブ表現においても今までのままだと強度がすごく弱まる部分もあった。変わってしまった世界に対して新たな表現と新たな遊びを俺はやろうと思ってる。

編:すごい舵切るのが早かったなって。見ててびっくりしました。

weg:もっと早くしたかったけどね。

編:まだまだ打つ手いろいろ考えてますか?

weg:うん。動いてるアイデアはいくつかあるよ。

編:柏さんにとっての変化はいかがでしたか?

柏:仕事はほぼ延期か中止になりました。2020年の4月ぐらいだったかな、8割くらい飛んじゃって。その頃息子たちも休校になって、どうするかなぁってみてたら、早起きして勉強始めたんです。5~6時に起きて毎日勉強。そうなると親として頑張らないと、空いた時間をチャンスと思って作品を作ろうと切り替えました。不安は抱えつつも、自分にとっては時間ができたことを活かせ、世の中の二面性というか、悪い事の裏には良い事も隠れてる、その逆も、そこに気付けました。例えば、僕は2000年に大学を卒業し社会に出て、就職氷河期ど真ん中の世代なんです。工学部でしたが多くの人が就職できない、そんな中就職しても将来どうなるんだろって感覚が強くて。それなら好きなことやったほうがいいよねと思って音楽の道に進みました。きっとどの時代や誰にでも悪いことは起こります。ただそこに隠れてるプラスになることが見つけられると人生は変わるってことを、子供達に伝えたいと思いました。悪いことだけ見て何かのせいにするって簡単だけど、可能性も裏にきっと隠れてる。今は苦しいですけど何とか前を向いて頑張ってほしいな、って思います。

編:自分にとって大事なものは何かっていうのを皆が考えるタイミングだったなっていうのは感じます。

柏:そうですね。それが見直せるきっかけになりました。色々と息苦しい時代ですが、できることはたくさんあるし、その気になれば希望っていうのはいろんなところに見出せるはず、っていうのが今回言いたかったことでもあるんですよね。

編:なるほど。絶望の裏には必ず希望が隠れていると。それは今回のアルバムからも感じ取ってほしいテーマでもあるんですか?

柏:そうですね。仕事が飛んでお金の不安もありましたが、それによって生まれた作品がある。それを聴いた人が自分も何かやってみようかなとか、プラスになれば一番いいなと思います。

編:父として息子さんたちにお話しする時も、具体的に働き掛けたりとかされますか?

柏:子供達にも、色々話してます。未来のことなんて分かんない、もっと大変なことが起こるかもしれないし、特に日本は地震がまたいつ起きるか分かんないって。そこで挫けるよりも、希望を見つけて前に進まなきゃいけないと。自分自身がメンタル弱いので、自分に言い聞かせてるのかもしれないです。

編:なるほど。そんな思いを今回の作品に昇華できたっていうのも、ご自身にとっていい区切りというか、節目だったんですかね。

柏:そうですね。ずっとやりたかったことの一つだったので。音だけで映画を見てるような楽曲を作るという想いはずっとあったので、やっと作品に残せたのは嬉しかったです。

program music III | KASHIWA Daisuke | Virgin Babylon Records

(後編)はこちらから

PROFILE

world's end girlfriend
(ワールズ・エンド・ガールフレンド)

かつて多くの隠れキリシタン達が潜伏した長崎県の五島列島に生まれ、10歳より独自に音楽/作曲をはじめる。カンヌ映画祭に出品された是枝裕和監督作品「空気人形」の映画音楽を担当。クラシカルな楽曲からエレクトロニックな楽曲、ノイズからAKB48ドキュメンタリー映画音楽まで圧倒的美醜と振り幅で活動し続ける。2016年、アルバム「LAST WALTZ」をリリース。健全優良魑魅魍魎が集うVirgin Babylon Records代表取締役。

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KASHIWA Daisuke
(カシワ ダイスケ)

学生時代、プログレッシヴ・ロックに影響を受け作曲を始める。2004年にKASHIWA Daisukeとしてソロ活動を開始し、2020年までに9枚のフルアルバムをリリース。2009年には世界三大クラブ、ベルリンのBerghainでCLUSTERとの共演や、ドイツ最大級のフェスティバルFusion Festival 2009にも出演。新海誠 監督作品 "言の葉の庭"の音楽をはじめ、海外の映画やアニメの劇伴、多数のCM音楽なども務める。自身の創作活動の他、様々なメディアへの楽曲提供、ミキシング&マスタリングエンジニアとしても活動している。

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