• TOP
  • PEOPLE
  • FREE SESSION
  • SOOOO × きくお 対談(前編) | VOICE from DARKNESS ~闇からの声~

PEOPLE

2023.01.31

SOOOO × きくお 対談(前編) | VOICE from DARKNESS ~闇からの声~

取材・構成:清水 里華 撮影:ゆうばひかり

友人ボカロPに導かれた二人の出会い。

編集部(以下、編):日本人ボカロPとして海外でも高いプロップスを誇る『SOOOO』さんに、FREEZINE編集長sashiが興味を抱き、ボカロPの創作の源泉やこだわり、今後の展望などを伺ってみたいという経緯からお声がけさせていただきました。その後SOOOOさんから、プライベートでも仲の良いボカロPの『きくお』さんをご紹介いただき、FREEZINE内コンテンツ「PEOPLE/FREE SESSION #0003」として今回の対談企画が実現する運びとなりました。そもそもお二人はどのように出会われたのですか?

きくお(以下、き):共通の友人であるボカロPの『ばぶちゃん』が、自分とSOOOOさんを含めいろいろな人をつなげてくれたんですよね。最初は『DENDRA!』っていうライブイベントがありまして、それもボカロPの『ATOLS』さんが主催されてるんですけど、それのライブの楽屋で会ったぐらいが初めだったっけ?

SOOOO(以下、S):初対面自体は、個人的に僕がコミックマーケットで挨拶に行ってという感じだったんですけど、そのときはまだそんなに関わりを持たずに、最終的にばぶちゃんが僕のことをきくおさんに紹介してくださったみたいで、それがきっかけでつながったっていう感じですね。

き:そのとき俺、音楽関連の友達一人もいなかったんで、音楽のこと語れるおしゃべりできる友達ほしいなと思ってたところに、ばぶちゃんがLINEグループ作ってくれて。いろいろその中で話していくうちに実際にも会って、みたいな感じです。もう5年ぐらいの付き合いですね。

編:お二人でよく遊びに行かれたりするんですか。

S:こないだは一緒に京都のフェスに行ったり、クリスマスパーティしたり。

き:あと、『bo en』さんっていう共通の好きなアーティストがいて、その人がこの前イギリスから来日された時にうちに呼んだら来てくれて、SOOOOさんも一緒にみんなでワイワイしたっていう。

S:僕はきくおさんよりもだいぶ後にボーカロイドで作曲を始めたんですけど、その時点でボカロ曲っていうものを全然知らずに始めたんですよね。なので、きくおさんと初めて出会った当初も、とりあえずボカロで曲を作ってるいろんな方の曲を聴いてみようっていう過程で、一応名前だけを知っていた程度だったんです。仲良くなるにつれて、こんなにすごい人だったんだと後から知ってしまったっていう。

き:あんまりオーラがないので(笑)

S:いやいやいや!

編:それだけ仲良くなるってことは、お互いに共鳴するものがあったのでしょうね。今回の対談テーマとして「闇からの声」を掲げていますが、お二人の創作の源泉として「心の闇」はおそらく共通する部分でもありますよね。そのあたりのお話を伺えますか?

き:これはSOOOOさんがきっとわかりやすくて、「射精」って感じじゃない?

S:もうちょっとマイルドな言い方をすれば「排泄」ですけど、溜めて溜めて日ごろのいろんなうっぷんをとにかく山のように詰め込んで、全部ばーっと出して、もう数か月間放心状態。僕、あんまり自分のことをアーティストだとか、表現してるっていう感覚でやってるつもりが全くなくて、自分の中にあるものをそのままの形でぶん投げたっていうかネットの海にぶん投げただけっていう。そういう感覚なので、「SOOOOさんすごい」みたいなこと言われても、僕そんな崇高な存在じゃないから、みたいな感じで…。好きな音楽も、吐き出す系のアーティストとかものすごく大好物ではあるし、カラオケとかでもそんな風に歌うんですけど、音楽自体は割と全般的に好きで、元々僕の好きな音楽ジャンルはJ-POPなんです。僕が今やっている音楽ジャンルとは実はあんまり関係なかったりしますが、割といろんなジャンルの音楽を割と偏見なく聴いているつもりではあります。

き:すごく音楽に詳しいんですよ、SOOOOさんは。だから自分も結構、音楽的なこともいろいろ相談したりして。もっと人気出るにはどうしたらいいんだろうとか。そしたらめちゃくちゃ的確なことを答えてくれたりするんで。アルバムの曲順どうしてる?とか。だから吐き出す系だけじゃなく他のジャンルについても、何を聞いても答えてくれるし、ほんとにそこは確かなところですね、SOOOOさんは。

ボカロ曲の創作に見出したそれぞれの希望。

編:では、数ある音楽の中でなぜボカロを始めようと思ったんですか。

S:元々僕、音楽のこと全く知らないほんと世間知らずな少年っていう感じではあったんですけど、学校のクラスのみんなが好きなアーティストさんや歌手の話題とかを挙げていく時期になってきたときに、僕だけが全然話についていけずに、一時期は「SMAPってなに?」だとかとんちんかんな質問をしてしまってみんなに笑われたりみたいな感じで、これちょっといろいろ音楽聴かなきゃなと思って、それをきっかけにオリコンの週間ランキングみたいなのを毎週見るようになりまして、どのアーティストがその週に何枚売れてみたいなのを毎週徹底的に調べるようになったんですね。それで周りの流行から取り残されずに話についていけるぞと思ったら、僕がいろいろ聴きすぎてることで逆に引かれるようになってしまって、同じ大衆音楽の話をしてるつもりでもそこでもみんなと話が合わずに、みんなと話を合わせたくて音楽を聴き始めたのにそれのさじ加減を誤ってしまったというか。

き:カラオケもうますぎて引かれるみたいな。

S:そうですね。卒業式の日に自分の好きな『凛として時雨』の歌を歌ったら、そこのカラオケルームにいた女子の方が全員悲鳴をあげて逃げていくっていう経緯がありまして(苦笑)

編:察するに、ギャップもあったんじゃないかなと。まさかそうくると思わなかったっていうか。

S:クラスではそんなに目立つ存在ではなくて、むしろスクールカーストの低い方にいたとは思うんですが、そこで話は元に戻るんですけど、いわゆる大衆音楽ばっかりを聴いておりまして、大衆音楽以外の存在を一切知らずに学生生活を送ってきたっていうのはあるんです。なので僕がボーカロイドを知ったきっかけ自体は、元々テレビだとかネットのニュースだとか、あとは友達とカラオケに行ったときにその子が初音ミクの歌を歌っていて。それまでは、僕にとってアーティストさんっていうのが、レコード会社に認められてしっかり契約を結んでプロとしてデビューを果たしてっていう過程を経てCD発売したりネットに配信したりとかっていう風に活躍してるイメージだったんですよね。なので、そもそも友達が歌ってるボーカロイドの曲とかも、どこかのレコード会社に所属しているプロの方が作ってる曲なのかなっていう認識でいたんですよ。僕がTwitterを始めたころに、たまたま僕のTwitterのフォロワーさんだった人が自分で作曲編曲してボカロ曲をネットに投稿してる姿を見て、「え?曲ってプロじゃなくても作れるの?」みたいな。今思えばほんとに世間知らずだったっていうのはあるんですけど。元々僕がいろんな大衆音楽を聴くにつれて、「万が一自分が歌手になったらこういうアルバムとか作ってみたいな」とか「こういうストーリー性のある物語とか作って」などの妄想は休み時間とかにしていたことがあったんですけど、僕は別にプロじゃないし、歌手デビューできるほど歌がうまくないし、曲も作れないし、みたいな感じで妄想の範疇で留めていたんですね。でもそういうレコード会社に所属してないアマチュアの方が、自分で曲を作ってそれをボーカロイドに歌わせてネットに発表してるっていう文化っていうんですかね、それがこの世に存在していることにものすごく衝撃を受けて。僕生まれてこの方、音楽経験っていうものが一度もなくて、なにか楽器を習っていたとかバンド経験とかも一切なかったんですけど、「これなら僕でもできるんじゃないか」っていうきっかけを与えてくれたのがボーカロイドの文化っていうのはありますね。

き:中学のころからめちゃくちゃに蓄積された音楽の知見と、ものすごい渦巻いている自分の中の闇とが、楽器っていう手段がないからずっと溜まりっ放しで、何十年以上溜めてきたものが、DTMとボーカロイドさえあれば、楽器やんなくても、自分で録音とかしなくても、今吐き出せるじゃんっていうことに気づいてしまったその瞬間に大爆発が始まったっていう感じですよね、SOOOOさんの場合は。

S:元々僕の曲は「暗い」だとか「ホラーだ」とかいろんな風に言われてはいるんですけど、始める当時はそういう曲を作るつもりがなくて。僕にとってダンスミュージックのルーツがトランスミュージックだったので、元々ボーカロイドやDAWを買った当時はトランス系の曲を作ろうと思ったんです。しかし、始めた直後に割と私生活にいろいろあって、そのときに今まで溜めてたものが爆発してしまって、気づいたらこうなってたみたいな。初期、ニコニコ動画だけに曲をあげていた時代があったんですけど、そのときはほんと音楽のこと全く知らずに、不協和音まみれで音楽として成立していないものばっかりだった。なので、すぐに爆発的にヒットしたっていうわけではなかったのですが、YouTubeに投稿したことがきっかけで、たまたま海外の方に見つけてもらえて…。

き:「なんだこいつやべぇ、すげえ生々しくて勢いのあるやつがいる。なんだこいつは?」みたいな。最初から爆発するんだよね。SOOOOさん、普段のおしゃべりとかでも、自分の心の闇をぼんぼんぼんぼん話すんですよね。自分のここの闇の恥ずかしい部分は相当仲良くなった人からじゃないとみたいな、隠しておこう、みたいな感じでは全然なくて、初対面でも心の闇から話すみたいなところがあって、闇の出力のルートが人よりスムーズなのかなと感じたりはする。

S:割と人は選んでます。直感でこの人なら大丈夫かなと思って、言葉は選んでるつもりではあるので。きくおさんからしてみればめちゃくちゃ心の闇とかに対しておしゃべりな感じという印象かもしれませんけど…。

き:結構、信用されているよね。「なんでもかんでも自分の心の深いことをどんどん話してくれるから信用できる」みたいなことを言われてたりする。

S:どうなんですかね。音楽家の方以外からは結構、裏表が激しいとはよく思われることが多いですね。日常生活では割と優しくて温厚で、みたいな感じに思われている。

き:それは俺もよく言われる。「その日常生活の感じではとてもあんな音楽やってるとは思えん」みたいな。

S:別に意識して分けてるとかそういうつもりではないんですけど、恐らく無意識的にそういう方に自分の闇の部分を見せることに恐怖を感じているのかもしれません。

き:ちなみに、SOOOOさんのルートと俺のたどってきたルートってかなり違うんですよ。ほぼ180度違うといっても過言ではないルートをたどって。だから今こうして邂逅できてるのは、結構奇跡的な感じなんです。たまたまボカロっていう共通点、ボカロで暗くて海外から受けがいい、っていう共通点だけでたまたま今交差してる、っていう状態だったりして。俺はそもそも創作だったら何でもよかったんですよ。絵でもよかったし、音楽でもよかったし、あるいは踊りだとか演奏だとか身体表現だとかプログラミングだとか、あるいはゲーム作ったりとかマンガでもそうだし。創作をやって生きていくっていうことができればなんでもいい、っていうところからスタートしてるんですよ。すごい前までさかのぼると、小学生のころいじめられてたけど、一人遊びで作ってたゲームブックみたいなのを見せたら、「お前すげぇ」みたいな風になって、ゲームブックやらせてるときだけ一時的にいじめが止んで、ゲームブック引っ込めたら途端にいじめられるみたいな。そういう状況から、「あ、創作じゃないと生きていけないんだ、俺この社会で」ってなって、中学のころに創作ならとりあえずなんでもいいから、自分の得意なもの探さなきゃと思って、いろんなことチャレンジしたんですけど苦手なこともできないこともすごく多いし、めっちゃ飽きっぽかったんで、あらゆることに飽きた結果、最後に一つだけ飽きなかったのがDTMだったみたいなことだったんですよ。だからSOOOOさんの場合は、いっぱい音楽聴いて溜まったものから出していくみたいなところだったんですけど、俺は音楽を聴いたことない状態から作り始めたんです。CDも一枚も持ってなかったし、ラジオとかの曲も聴いたことなかったし、なにも知らないままとりあえずツールだけあったんですよ。ソフトウェア、パソコンで。ちょうど今俺34歳なんですけど、パソコン一台で音楽ができるっていう環境がまさにでき始めたときだったんです。中学校のときが。

編:黎明期だったんですね。

き:そうです。で、なにも分からないまま作り始めて、で10曲、100曲ばんばん作って、聴かせる人いないんで、2ちゃんねるに「初心者用の曲作ったから聴いてくれスレ」みたいなところにどんどんあげて、いっぱいアドバイスもらって。とりあえずそれで生きていかなきゃいけないから、クオリティー上げるために必死になってみたいな感じで。っていう感じが曲作り始めで、「心の闇」的なボカロ、っていうのも、その過程で出会ったものだったんです。それこそ明るいのも作ってたし、ゆっくり目なのも作ってたし、派手なものもポップなものとかもダンステンポのものも、いっぱいいろんなものを作って器用貧乏な感じでやってたんですけど、その中で「ボカロっていうのも最近あるからやってみたら?」「やるやる!」ってボカロ始めたんですけど、本当はみんなに喜んでもらえるかわいくてポップで派手なやつを作るクリエーターになりたかったんです。あとはみんなから好かれるゲーム音楽作ったりとか。っていうのでずっと頑張ってたんですけど、びっくりするほど芽が出なくて。それを7年ぐらい続けてたんですけど、信じられないぐらいファンがつかなかったんですよ。で、ボカロ曲を2、3曲作ってそのあとボカロシーンっていうのを見たんですけど、結構暗い曲多いんですよ、ボカロには。えげつないグロテスクな曲とかも多くて、結構それが人気あったんですね。じゃあそれっていいの?と思って。だって人っていうのはかわいくてポップで派手なのが好きなはずなのに、おかしいなと思って。じゃあ暗いのも作ってみようかなって思ったらそれが途端にヒットして、で現在に至るんですけど。で、思い返してみれば、確かに自分が好きになる曲とか作品とか見てみても、俺、インターネットしか音楽に触れる機会なかったんで、ネット上のめっちゃ暗い表現とか、心の闇をダーッと吐き出したような落書き界隈とか、もう心の闇でしかないRPGツクール作品だとか、心の闇でしかない15秒ぐらいただ叫び声だけをあげ続けるアカウントだとか、そういう怪しいのがいっぱいあるんですよ。ってか、そういうのしかないんですよ、インターネットの黎明期の音楽なんていうのは。そういうのを、「わー、おもしれぇ!」って思って。ポップスとかも全然聴かなかったし、なんなら今でも全然知らないし、だから「元々暗いもの大好きだったじゃん」っていうのと、そんな感性しててポップなもの作れるはずがなかった。だから暗いものが好きって言っても、SOOOOさんの場合はバンドだとかいろんなタイプのPOPSから入ってって、俺の場合はインターネットの奥底の怪しいところの闇のところからスタートしててっていうので。

編:全然アプローチが違ったんですね。

き:そうなんですよ。全く違うんですよ。

S:僕はほんっとに音楽始める前はずっと運動ばっかりしてましたね。今もう運動ほとんどやっていないんですけど、幼少期のころは水泳とサッカーと陸上だったりをやってて、率直にいうと好きじゃなかった。でも僕が頑張ってる姿を見て周りが喜んでくれるんだったら、っていう意識だけで、嫌いな運動をずっと続けてた感じですね。

き:もう闇深いね。闇見えるね。

S:あとはサッカー部や陸上部にいた頃、いじめを受けてたんです。合宿のときに僕が体を洗ってる最中に、僕の着替えが全部湯船に投げ込まれていたりとか…。あと夏の暑い日に、部員のマネージャーの女子の前で、口の中に大量の氷を詰め込まれてぶわって吐き出しちゃって、女子から「うわ、きも、この人無理!」みたいなことをやらされてたんですけど、ここで辞めてしまうと「あいつは逃げた。心の弱いやつだ」って思われるのが嫌だったので、ほんとに周りへの見栄だけのために生きてきたっていうそういう感じ。

き:自分の心の闇をどんどん話してくれる。この調子でもうばんばん話してくれる。

S:こういう機会だからで、普段は話さないですよ。基本的にこういう闇のエピソードとかって、アーティストの方々に話すと、そういう部分が今の作風に活かされてるんだねっていう風に理解してくださるんですけど、それ以外の方に話しても引かれて…。だから普段は話さないようにしてるんです。

編:それらの闇エピソードは何年くらい蓄積されてきたんですか?

S:運動だけに限らず、僕、幼少期から吃音を持ってて、しゃべること自体にものすごく難がありまして。昔と比べると話し方のコツだとか徐々に感覚的に分かってきたので、今はちょっとマシになってると思いたいんですけど。幼少期のころは国語の音読の時間とかが嫌いでしたね。席順に一文もしくは段落ごとに一人ずつ順番に読み上げていくみたいな感じになっていくんですけど、僕のターンになると必ず話せなくなってしまうんで、そこで笑いのネタになったりってするのがもう常習的に続いてたっていう。学校でも自分が潰されないようにクラスでの立ち位置を作るために、無理してキャラクターを作ってたみたいな時期とかもありましたね。例えば僕が吃音を持っていることで、周りの人が僕の真似をするんですよ。「あぶわぶわぶわ」みたいな感じで。そこで僕がへこむとそこで終了なので、僕がさらに僕の吃音の真似をしてる人の真似をするんです。その人の。僕が吃音を発症させるとその人が「あぶわぶわぶわ」とふざけて、で僕がさらにその人の真似を「あぶわぶわぶわ」と被せるみたいなことを日常的に行ってて、結局クラスではいじられキャラ的な立ち位置を確立することになりました。

き:歪んでいるね。いびつなキャラの確立のさせ方だよね。

S:最終的には学園祭の劇で、女装して全校生徒の前で主役を演じるみたいなところまで上り詰めたっていう言い方はちょっと変かもしれませんけど。自分がネタにされることで周りの人が楽しんでくれるなら、喜んでくれるならそれでいいや、みたいな感じの生活を10年から15年くらい送ってきたので。

き:それは溜まるよね。

S:排泄の仕方っていうのがほんとに分からなかったので、ボーカロイドとの出会いっていうのが、自分が今まで内に長年溜めてきたものを吐き出す手段をようやくここで見つけたというかそういう感覚でしたね。好きで始めたっていうよりかは、僕の中にあるものをもうほんとに大放出する手段として利用してるって。こんな言い方はちょっとひどいかもしれませんけど、それで活動を続けてるっていう感じですね。

実体験や心象風景がもたらす楽曲の「強度」。

編:ここでちょっとお二人に確認です。それまでボーカロイドが入ってない曲も多分いっぱい制作されてきたと思うんですけど、ボーカロイドとの出会いを機に「ボーカロイドとともに叫びたいな」という方向へ、がちゃっと変わった感じですか?

き:徐々にですね、俺の場合は。今ボカロのアルバムで6枚出してるんですけど、3枚目ぐらいのときまでは、まさかボーカロイドだけで生活していくっていうのは想像もしてなかったですね。生活っていうかそればっかり作っていくことになろうとはってことは。でも結局俺の場合はみんな好きって言ってくれるし、他のボカロ以外の曲作ってもやっぱり反応がいまいちだしっていうので。みんなが喜ぶものっていうのは派手なものとかポップのものじゃないと、っていう思い込みがかなり長いこと抜けなくて、それを何年もかけて抜けて行った結果、今はボカロばっかり作るようになったっていう感じですね。

S:これ僕の曲の制作の仕方にも関わってくるんですけど、僕の感情の放出のさせ方としてまず歌詞を書くんですよ。曲から作り始めるんじゃなくてとにかく自分の思ってることをばーって歌詞に書きまくって、その歌詞に合うような音を徐々に積み上げていって制作してくって感じなんですけど、やっぱり僕の音楽ルーツがJ-POPっていうところもあったりするので、やっぱり歌詞ありきの曲が自分の感情の放出の仕方として割と適していたのかなという感じですね。ただその大衆音楽の要素だけでは割と物足りなくて、自分の作った歌詞とかメロディーだけじゃなくて音でも感情を出したいなって欲とかが出てきて、その結果エクストリームメタル系のものだったり、あとはノイズインダストリアル、あとケルト系のものの要素を取り入れたりみたいな。

き:自分で歌わないの?

S:実際自分のボーカロイドの曲にも自分の声をちょっと、割と効果音的な感じで入れているんですよね。例えば「わああああっ!(叫び声)」みたいな声を録音して、それをボーカロイドの叫びとうまいこと混ぜて曲と調和させたりとか。今の自分の力量では、ボーカロイドの力を借りずして表現できない部分が割と大きいです。ただ将来、ボーカロイドで表現したい部分がある程度出し切って、もし自分自身の中のものを排泄する上で自分が歌った方が適しているなっていうアイデアが浮かんだときには、その手段を選んでいきたいとは思います。

編:先ほどサンプリングの話が出ましたが、きくおさんにリスナーからこんなご質問が。「物をパラパラ壊すなどのサンプリング音をどういう風な狙いで使われてますか?」

き:二点あって、全体的なこだわりとしては生々しい音が好きっていうのがあって、音の触り心地をすごい大事にしてて、触感フェチというか、今にもそこにある触れそうぐらいの生々しい音みたいなのがあるからっていうのもあって。で、もう一つはやっぱり曲のコンセプトっていうか曲をどれぐらいもっと深くできるかみたいな。例えば、物に関する曲だったら躊躇なく物が壊れる音とか入れるし、子どもが死ぬような曲だったらおもちゃの音とかガンガン入れるし、グロテスクな曲だったらホラー映画の果物握りつぶした音とかもそのまま使っちゃうし、っていう簡単な発想だったりしますね。その方が曲の強度が上がるから。

編:「強度」ですか、なるほど。音楽作りのこだわりについても深堀っていきたいんですけど、きくおさんが曲の「コンセプト」とおっしゃられましたが、まずそれありきで曲を作られるんですか。

き:自分の中に有意識と無意識の部分があって、有意識の部分で大体行き先を決めるんですよ。単純な話で、次はこんな曲作ってみたいなとか、こういう曲作ったら受けるんじゃないかみたいなことも考えるんですけど、それと曲作りを実際に担当する意識は全く別のところにあって、曲を実際に作るときはほぼ何も考えてないです。だからこっちの有意識で決めた道筋とは全然違うものができあがることもしょっちゅうありますよ。コンセプトはあるんですけど、ほぼコンセプト通りにいかないです。そのままに任せてます。そっちの方がいい曲ができます。一時期有意識の方が強くなりすぎちゃって、しっかりと戦略を練って、「俺はヒット作を作る作家なんだ!」「みんなの意見を聞いて、シーンをよく分析してこういう曲作れば受けるんだ!へへへ」みたいに肥大化しちゃったときには、全然いい曲作れなくなって。全然うまくいかなくて、もう違うなだめだなと思って、そっからちょっと瞑想とかして無意識な状態に近づけていって、ぱっと出てくるみたいな。

編:それってひらめきなんですか?

き:そうですね。ひらめきといえばひらめきなんですが、無意識の部分に身を委ねるってことですね。だからコンセプトは決めるけどその通りにいかないし、その通りにいかない方がいいものができるってことですね。

S:僕も一応コンセプト自体は曲を作り始めるときに全部決めてるんですけど、基本的に全部自分の実体験だとか自分が感じたことだとか、あとは昔のトラウマだとかを全部それをそのまま曲にしているような感じではありますね。使っている音とかかも、金属音だったりを結構曲に取り入れたりしてるんですけど、実はそれ僕が好きな音っていうよりかは、僕が一番恐怖を感じる音でもあるんです。金属音が出されるときって自分がぶん殴られるときのことを想像しちゃったりだとか、そういうことを思い起こさせてしまう音で。自分が書いてる歌詞とかも結構自虐的というか自分を責めるような内省的なものが多いんですけど、その金属音を使うことで自分が殴られるときのことだとか、鈍器でどんって脅されるようなときのことを思い出させてくれるというか。なのでそういう意図で使っているっていう感じではあります。

き:自分の不幸がベースになってるんだよね、作るときに。SOOOOさんはね。自分の嫌な音とか苦しい音っていうのをあえて使ってみて気持ちいいみたいな。だから自分の色んな不幸な体験をベースにした音楽がみんなに認められることで自分はもっと不幸にならなければならないんだって必死になったりしない?

S:それはめちゃくちゃ思ってました。正直。

き:そういうとこ好きだったりする。

S:実際そういうことをネタにした曲とかもあるんですよね。ある程度みんなに聴いてもらえるようになったときに、自分が書いてる内容、事実というか自分の昔の実体験の内容ばっかりだったりするので、それでみんなが喜んでくれるんだったら、自分は幸せになってはいけないのかなとか。

き:それは行き着く先は死だと思いますけど。

S:それはずっと残ってる部分ではありますね。で、自分が書いてる歌詞とかも、これは僕がずっと大事にしていることではあるんですけど、心の痛みっていうのは絶対に比べていけないものだって思っていて。自分よりもこの人の痛みが強いとか、この人の方がもっと不幸な経験をしてる、ひどい目に遭っているって言われることもあるとは思うんですけど、その人の育ってきた環境だったりその人自体の性格、価値観、あとはその人がなにを経験したかっていろんな複雑な要素が絡み合った上で感じる部分ではあったりするので、仮にその二人の全く違う人物が全く同じ経験をしたとしても、それをどう感じるかはその二人で全然違ったりするじゃないですか。

き:痛みは本来は比べられないものだけど、俺も結構いじめを受けてきたので、その体験をネタに曲に表したり、元ネタにしたりっていうものを俺もよくやってたんですけど、そればかりやってしまうと量を作れなくなってしまうので、俺の場合はSOOOOさんに比べるともう少しバランスよくやっています。もちろん、自分の心の闇を曲に込めると、曲の強度はやっぱり上がるんですよ。で、それはそれとして、自分の場合は今、こういう話を聞いたりして、他の人の不幸も取り入れたりします。取材ですよね。取材から元ネタを拾って作り続けるってことと、作品の強度を保つことを両立するところは、違いとしてあると思いますね。

S:僕が足りないのはそこですね。本数がとにかく少ないので、今は一年に1曲2曲出せばいい感じになってるんですけど、基本的に僕が活動を続ける目的って、自分の中にある感情を排泄することが目的だったり、あとは排泄することで感情自体が報われることが目的だったりするので、万が一それを見てくれた人がそれで楽しんでくれたり喜んでくれたり、人気を博したりしたらラッキーだな程度の感覚にとどめています。なので聴いてくれる人には、こんなに自分の自己満足に自分の大事な時間を費やしてくれてありがとうっていう気持ちしかないですね。

き:結構自分が幸せな状態にあるときって曲作れなかったりするよね。

S:作れないです。僕にすごく優しくしてくれたり親切にしてくださる方々とかもいて、その人たちには本当に申し訳ないんですけど、その人たちと一緒にいることで、ああ自分今満足しちゃってるな、心地いいなっていう気持ちが湧き上がってきた瞬間に、これだめだって思ってそこから脱走しちゃうことが結構ある。

き:俺そういうのおもしろいな、って思ってネタにしちゃったりとかします。

S:そういう僕の話を聞くとき、いっつもにちゃにちゃ笑ってるんですよ。

編:先ほどのきくおさんのお話を伺ってとても興味深かったのが、実体験をベースにした曲の方が強度が高くて、実体験ではなく取材したことをテーマにした曲は強度が低いという点なのですが、量産していく中で後者の強度も上げていかなきゃいけない問題をどのように解決していくんですか?

き:実際強くならないですね。やっぱり。そこは取材だけで技術だけで、っていうのだと、どう深めていっても不思議と芯がないものになってしまいますね。多分ブレるんでしょうね、きっと。例えば取材とかいっぱいしてそれをネタにして曲を作ったとして、それがそれなりに頑張ったものであったとしてもおそらく結構ブレると思っていて。自分の実体験として事実としてあったものっていうのは、事実自体もネタにするしその本質のところっていうか芯のところですよね。その芯のフィーリングというか、イメージというか、印象というかそのときの心象風景というか、そのときに見えてた物質じゃなくてそのときに感じていたそのものというか、そこをコアにして表現したいものを探すっていう風にしていくと、そうすると自分の実体験のネタが尽きた、もう次がないみたいなエッセイマンガみたいなこともないし、その自分のコアがあった上でネタを集めていくってことをすれば、ブレなくかつ芯の強いものがたくさん作れるっていう風になるんじゃないかなって思っていろいろやってますね。

編:ちなみに、自分の中でこれ強度弱いなっていう自己評価と、リスナーの評価って比例しますか?

き:全く比例しないです。もう受けるかどうかは運でしかないです、ほんとに。なんでこれが受けたのか、なんでこれが受けてないのかっていうのいっぱいありますね。

S:僕、結構きくおさんからその件で相談たまに受けて、どういう曲がヒットしてどういう曲が受けないみたいな、僕が統計をとってきくおさんにデータを送り続けるみたいなこととかやっていたりするんですけど。

き:ありがたい。

編:とてもいい関係性ですよね。ちなみに、評価が比例しないことにジレンマは感じますか?

き:もちろんそれはどうかなとは思いますけど、そういうものなんでしょうがないんですよね。諦めるしかないです。もうリリースしたら。リリースってよく言ったもんだなって思って。自分の手から離れていったら、どうにもならない、もう受け入れるしかないっていうところですよね。だからライブとかでしれっと入れ込んだりとかしますね。人気曲の間にちょっと挟んでみたり。「あ、マニアックな曲もやってくれた」みたいな風に喜んでもらえるし。

(後編)はこちらから

PROFILE

SOOOO
(ソー)

2014年末、自己嫌悪の捌け口を目的に作曲を始める。以降、一貫して少年時代のトラウマや心の痛みをテーマにしたボーカロイド楽曲の制作をし続ける。ノイズや金属音、自身の悲鳴さえもサンプリングした轟音の中でキャッチーで悲痛なメロディラインが際立つ独特な世界観が特徴。2018年作「Happppy song」が海外で話題となり、YouTubeとSpotifyでミリオン再生を記録。2020年、電子ドラッグイベント「DENDRA! Reincarnation」にライブ出演。

Twitter

YouTube

Spotify

きくお

1988年生。
2003年、音楽制作を開始。ゲーム音楽や、BMS・Muzie等のインターネット音楽に浸りながら、ゲーム音楽、アイドルソング、東方アレンジなど、裏方としての楽曲提供を中心に活動。
2010年、ボーカロイド楽曲初投稿。
2016年、ニコニコ超パーティー2016 inさいたまスーパーアリーナ出演。
2017年、高等学校用教科書「高校生の音楽1」(教育芸術社)、きくお feat. 初音ミクとして楽譜と顔写真掲載。
2022年、「愛して愛して愛して」Spotifyにおいて、VOCALOID楽曲再生数世界1位を達成。
同年、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀 究極の歌姫 バーチャル・シンガー 初音ミク」長期密着取材を経て出演。

Website

YouTube

pixivFANBOX