COLUMN

2022.12.13

「コピーライター、ケーキをつくる。」 by 清水 里華 第9回/事業ローンチから終了まで。

前回までのお話によれば、商品開発+製品パッケージ制作+ECサイト制作のフローのご紹介でした。

その後も想定外の事件が多方で勃発しつつも、なんとか2019年11月に事業ローンチ。公私問わずお世話になっているみなさまからもご好意でお買い上げいただき、いろいろなご縁に感謝しながら細々と運営することおよそ2年。


「全然売れない…」


気づけば、コロナでおこもり需要が高まり、ECが世間に爆発的に浸透した時代のまっただなか。なのに、このケーキは自ら描いた青写真通りには売れなかったのです。時には、イトーヨーカドーのお歳暮カタログへの掲載、スイーツ男子のTweetなどなど、瞬間風速的な山はあったものの、通年で均すとほぼ閑古鳥状態だったのが実情でした。

これにはさまざまな要因が考えられますが、いま振り返れば、消費者が求める「価格に見合う価値」を満たしていない、ということが最大の弱点だったと思われます。事業開始当時に比べれば、糖質オフ+グルテンフリーなスイーツはコンビニでもスーパーでもどこでも安価で入手できるようになった一方で、こちらとしては初期費用と原価と送料を賄うべく、容易に販売価格を下げられないジレンマと戦う日々でした。

少しでも拡販につながるよう、事業立ち上げ当初より社内の有志にTwitter・Instagramのコンテンツ制作・運用に日々地道に取り組んでいただき、おかげさまでフォロワーも順調に増えたものの、売上にはつながらず。

そんな焦燥感に苛まれていた2022年2月。

事業計画時からずっとお世話になってきた製造委託先である障がい者就労支援施設の店長さんが、一身上の都合により退店される、というショッキングなお知らせが届いたのでした。さっそくご挨拶に伺い、後任の店長さんと引き継ぎを兼ねた打ち合わせをした際に、「この売行では、原材料の賞味期限管理の面からも、製造委託を受けかねる」という厳しいお話をいただいたのでした。そもそも、この事業のテーマは「障がい者就労支援施設への利益還元」。そんな事業が、続けることで逆に施設の皆様にご迷惑をおかけしている。これでは続ける理由がありません。

「これはいよいよ潮時だな…」

そこで、事業ローンチから2年半というタイミングの2022年5月での事業撤退を決断。社内稟議にかけ、正式に事業撤退が決定したのでした。社内でも社外でも、事業撤退について惜しんでくださる声もいただきましたが、これにて強制終了と相成ったのでございます。

アルバイトを除き、広告業界でしか社会人経験を積んでこなかった自分にとって、この事業運営から学んだことは数えきれないほどたくさんありました。就労支援施設をはじめ、パティシエ、イラストレーター、渋谷区役所、印刷会社、社内メンバーなどなど、この事業に関わってくださったみなさまには感謝しきれないほどお世話になりました。事業をこんな形で閉じてしまった力不足の自分を実に情けなく思っています。

こうして「みんなにおいしい思いやりスイーツ」事業は失敗に終わりましたが、今後も「みんなにおいしい思いやり=三方良し」の新しい形とはどうあるべきか、この予測不能な現実とどう折り合いをつけ、正当な利益をどう持続的に上げていくべきかを、己のテーマとして引き続き追求していきたい、いや、やるべきだと考えています。

みなさま、ありがとうございました!

PROFILE

清水 里華(シミズ リカ)

都内の広告会社に勤めるクリエイティブディレクター兼コピーライター。
ときには、戦慄のオルタナティヴロックバンド「Very Ape」でドラムを叩き、ときには、WEBメディア「FREEZINE」で企画+取材+構成+イラストを担当。

Very Ape

Twitter