COLUMN

2021.05.28

「地獄のセルフレビュー」 by 印藤勢 第2回/『大東京音像』(DIE TOKYO ZONE)

1. 「ハダシノ」

突然、雷に打たれたように音楽が向こう側から迎えに来ることがある。必要最低限のリフレインとメロディで構成されたこの曲は、まさにそんな体験を形に残した。まだベースも入ってない状態で、アルカラ太祐くんにデータを投げたけど、返ってきたヴァイオリンの旋律に驚いた。後半にサザンオールスターズ"愛の言霊"をサンプリング(オマージュ)した様な掛け合いがあるのは内緒。

2. 「Secret Messiah」

誰かのために曲を書く、という行為は未だかつてしたことなかった気がする。登場人物やモチーフが明確な場合を除いて。鎖GROUPミスター小林氏の勧めで、Satellite YoungやBon Jovi"夜明けのランナウェイ"的な80'sノリのハードポップに、"ムーンライト伝説"とFF植松伸夫テイストも加えた。ギソロだけメイデン要素(と、Symphony X)それからアウトロにはMEGADETH愛も注入。

ベッド・インJAPANくんのお陰で妖艶な仕上がりになった。STRATOVARIUS"BLACK DIAMOND"ライクな鍵盤には思わず吹き出した。

3. 「低空非行 2020」

最もハードコアテンポに属する。弾きながら歌うことは容易でない。ダウンロードシングルver.とはミックスそのものが違う、それからハーモニーも。主観ではTHE CREATOR OFの影響がある。

俺はこれまで本気で音楽に取り組むという行為から逃げていたが、この曲を境に意識が変わった。自分が変わることで、まるでドミノ倒しのように周りの環境 / 状況さえ変わり始めたのもこの頃。

4. 「EDEN (feat.あんびるはるか)」

食わず嫌い、偏見の対象であったV系の要素、例えば耽美なアルペジオの響きやトゥーマッチな退廃 / 終末的世界観などに向き合った。結果、今の時代背景も手伝ってディストピアロックを印象付けたのは皮肉話。宇多田ヒカル"beautiful world -planitb acoustica mix-"にフルシアンテ(特にソロ作)との親和性を感じ、ギターの重奏に拘った。

あんびる嬢の朗読、歌唱しかり俺が口出しすることは何もなかった。ライブでこのver.を4人で再現できたのは素晴らしい思い出。逆説的に言えばコロナを予言したようなパラドックスを起こす。

5. 「団地の下で落ち合おう」

裏話から伝えてしまうと、当初RECする予定のなかった小曲。松井エンジニア(お嬢)のお陰で予想以上にスムーズに全体作業が進み、この録音までたどり着いた。エレアコのラインとマイクどちらも2回ずつ計4回のテイクが混ざっている、はず。

XXXTentacionにハマってた時期でもあり、宅録的質感と酩酊にいざなうような仕上がりに。レーベルボスとベース弘明くんはこの曲を推す。

6. 「青空高円」

クライマックスに相応しい、となるとBLIND GUARDIANしかないっしょ、ということで自分なりのケルト / アイリッシュ(つまり土着的民族音楽性)を感じさせるには?と、考えたところ演歌 / 和製音階を随所にフューチャーする結果となった。中込智子さんのライナーでは童謡やレベルミュージックを引き合いに出されたのが嬉しかった。

ブラストビートの展開に笑い驚く人もいるが、意外と本人はナチュラルに作ってます。拘ったところと言えば転調の都度、ハーモニーやコード感(ヴォイシング)が変わる。アウトロのソロだけメタルゾーンのプラグインを使ったことだけ覚えてる。

改めて「大東京音像 (DIE TOKYO ZONE)」を振り返ってみて。

ジャケ担当のトバさんと打ち合わせた際に、タイトルの像を"憎"に変えたらどうか提案したが、さすがにこじらせすぎだと一笑に付された。ちょうど一年前、1回目の緊急事態宣言下の井の頭公園沿いワンルームで友達の力を借りて作り上げた。

既に俺たちは次回作のRECをしているものの、これ以上"混沌とした"闇の深いアルバムは二度と作れない。と、今だから確信した。そういう意味ではセルフレビューというきっかけを与えていただいたことが、巡り巡って自分の為になりました。

FREEZINEの皆さん、マシリトのニッチで早耳なリスナーたち、本当にありがとうございました。

PROFILE

印藤 勢(インドウ セイ)

音楽家。マシリトの一員。9SARI CAFE & BARで店主らしからぬことをしているとの目撃情報有