COLUMN

2024.02.12

「ドキッ‼️ まさかだらけの心臓病闘病体験記」 by 清水 里華 第2話/退院勧告は突然に

文:清水 里華

2024年2月3日(土)

入院3日目。体重は日に日に落ち、謎の頭痛も続いているものの、心拍数はすっかり落ち着いている。朝の回診で、先生に「場合によっては2月5日に心臓ペースメーカー手術できるかもしれないよー」と声がけいただき、だとすると、予想よりもだいぶ早く退院できそうだな、などの算段をつける。心臓ペースメーカーを埋めているドラマーさんもいるのかな?と調べてみたら、あの「ドラびでお」=一楽儀光さんもそうらしいと知り、かなり勇気づけられたり。なにせいままさに、元BLANKEY JET CITYの中村達也さんと全国ツアーを回っておられますからな。

そんで午後。あれこれ経過観察した結果、再び先生の回診。どうやら私の心電図に出た「完全房室ブロック」なる不整脈の症状は、突発的なものかもしれない、とのこと。先生の患者さんで、水泳やってる60代の男性にも似たような症例の方がいるらしい。ってことはつまり?

「ひとまず、ペースメーカー手術は見送りましょう」

…え、いいの?
あんだけ脅されたのに?

詳しく話を聞けば、ペースメーカー装着には、細菌感染や心臓の弱体化リスクも伴うそうで、私のように自覚症状(ふらつき・失神・めまい)が出ていない症例の場合、装着すべきか判断が難しいそうだ。いずれにせよ、MRI検査の結果は月曜日以降にしか出ないため、一旦退院して様子見という判断らしい。

我々夫婦としては、「突然死のケース」「身障者判定のケース」「バンド活動半年停止のケース」などのロープレを想定しつつ覚悟してたため、正直、思いっきり肩すかしであった。

特に、病気が発覚したこの2日間で、夫のSNSを通じて本当にたくさんの方に、直接的または間接的に、温情と沁みる言葉を寄せていただいたことが涙が出るほどありがたく、夫婦ともに、本当にどれだけ励まされたか。だからこそ、みなさまの善意を踏み躙ったような発表となることが申し訳ない、そんな想いにもなりました。とは言え、元通りの健常者とはいかないまでも、ペースメーカー手術を免れたのは不幸中の幸い。みなさまの想いがあってこそだと思っています。この場を借りて、みなさまには心から感謝申し上げます。

片や、退院に向けての準備として、「運動負荷心電図検査」を行うことに。心臓に運動で負荷をかけたときに、ちゃんと心拍数が上がるか、をチェックする目的だそうだ。上半身全体に心拍数モニターをびっしりと貼り巡らされ、左腕には点滴、右腕には血圧計をぶら下げながら、ジムによくあるトレッドミルを必死の形相で走らされるあれである。どんどん斜度と速度を上げていって、「いける=1、ちょっとつらい=2、もうやめて=3」を自己申告するのだが、時にはこの検査中に意識を失う方もおられるそうで、医師3人と看護師1人に監視されながら黙々とベルトコンベアを走らされ、気分は完全にモルモットであった。結果、無事に心拍も上がったとのことで、晴れて正式に退院の許可が下りる。

午後、夫が呼ばれ、今後の治療方針について先生から説明を受ける。

トレーニングを積んだアスリートがなると言われている、いわゆる「スポーツ心臓」も1分間に40拍以下の低心拍になると聞いていたので、それとの違いを伺ってみた。たとえばマラソンの高橋尚子選手は1分間に30拍前後の心拍数なのだが、先生曰く、彼女の場合、心拍が「洞調律」=規則的に刻まれているのに対し、私の「完全房室ブロック」は脈動が不規則なので、全然違う症状らしい。とほほ。一流アスリートと比べる時点でおこがましい。

そして、私の「完全房室ブロック」の原因は不明ではあるが、心臓の筋肉が繊維化しちゃう「心筋炎」の可能性があるので、MRIの結果次第で判断するとのこと。仮に心筋炎でなかったとしても、一生「房室ブロック」の発作が起きないとは限らないそうで、これからずっと定期的に通院することが必要らしい。そして運動も、これまで通りの月200kmのランニングはあきらめるしかないようだ。うーむ。そして、場合によっては心拍数を24時間モニターするUSBデバイスを埋め込むことも検討しましょう、という話にもなる。いずれにせよ、心臓の病気とうまく付き合っていくしかないんだな。


朝/540kcal
コッペパン、ジャム、ツナとキャベツとにんじんの和物、みかん半分、牛乳

昼/400kcal
アジフライ、ツナとキャベツとコーンのコールスロー、茹でた小松菜としめじ、筍と豚肉のすまし汁

夜/400kcal
鶏肉とインゲンと大豆とにんじんの煮物、鰯のツミレと大根の麹煮、ごぼうと水菜のごまマヨ和え

2024年2月4日(日)

入院4日目。看護師さんの付き添いなしでは院内の売店にも行けない閉塞的な環境にもすっかり適応し、KindleやらアマプラやらYouTubeやらを気ままに見流すだらだらスタイルが定着しつつあった深夜、突然、隣のベッドにバタバタと急患が運び込まれる。どうやら、私と似たような不整脈の患者さんのようだ。うーむ、大丈夫だろうか、と息を潜めながら隣の様子を伺っていたところ、数分もしない内に高らかないびきを立てて爆睡されたので、ほっとしながらも内心「うるせえなあ」と毒付いてしまったことは内緒である。

毎朝の血圧・体温・体重計測、朝食を終えて、退院の支度。今日は日曜日で会計窓口も休みとのことで、病室を片付けて看護師さんに挨拶してあっけなく退院、である。迎えに来てくれた夫とタクシーに乗り込み、あっという間に自宅隣のショッピングモールへと帰りつく。生死か、障害者か、バンド休止か、という大きすぎる分岐点を彷徨った怒涛の3日は、こうしてあっけなく幕を閉じたのであった。

果たして10日後のMRI検査結果はいかに。第3話に続く。

PROFILE

清水 里華(シミズ リカ)

都内の広告会社に勤めるクリエイティブディレクター兼コピーライター。
ときには、戦慄のオルタナティヴロックバンド「Very Ape」でドラムを叩き、ときには、WEBメディア「FREEZINE」で企画+取材+構成+イラストを担当。

Very Ape

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