PEOPLE
2019.10.26
world's end girlfriend インタビュー | リスナーの耳を拡張するきっかけを作り続けたい。
取材・構成:清水 里華 撮影:ゆうばひかり
PEOPLE
2019.10.26
取材・構成:清水 里華 撮影:ゆうばひかり
編集部(以下、編):ポストロックやエレクトロニカのカリスマとして世界中から高く評価されるソロユニット「world's end girlfriend」で自らアーティストとして表現活動を続ける傍ら、層の厚い個性派アーティストを多数擁するレーベル「Virgin Babylon Records」を主宰し、両輪での活動を続けるwegさんですが、どのような過程を経て現在のスタイルに辿り着いたかお聞かせいただけますか?
world's end girlfriend(以下、weg):生まれは隠れキリシタン等で有名な長崎の五島列島で、10歳の時にふと聴いたベートーヴェンの「運命」に衝撃を受けて音楽をやろうと決めました。TVで流れてる歌謡曲もラジオから流れる洋楽も好きで見境なくいろいろ聴きましたね。島には文房具屋の一角に少しだけCDも売ってるくらいで、ライブハウスも楽器屋も映画館もありませんでした。そんなとこで18歳まで過ごしてたので情報への渇望は強かったです。ラジオ聴きまくったり、本屋に一冊だけ入ってたスタジオヴォイスや「ファッション通信」っていう番組で流れるBGMを情報源にレコードを取り寄せたり、ギターやシンセやサンプラーも現金書留を送って通販で入手したり、という環境でした。
編:そして18歳で上京。きっかけは何だったのですか?
weg:すでに作曲はしてましたが周りには打ち込みで音楽作ってる人は誰一人いなかったので、何もわからないまま自己流や勘違いや妄想で曲を作りつつげてました。東京にいけば同じような仲間がいるとわかってたので、高校卒業後はすぐに東京に行きました。生活費はバイトで稼いでましたね。頭では他のことを考えられる深夜工場の流れ作業のバイトばかりやってました。あとは葬儀屋やサーカスの警備員などいろいろやりつつ音楽を日々作ってました。
1stアルバム「ending story」を2000年に大阪のcurrentレーベルからリリースし、当時全く無名だったのに雑誌「ele-king」や「STUDIO VOICE」で取り上げてもらい嬉しかったですね。翌年2001年にnobleから「farewell kingdom」出して徐々に知名度高まっていったという感じですかね。
編:ちなみに、world's end girlfriendという名前にはどのような想いが込められているのですか?
weg:単純なとこだと「world's end」と「girlfriend」が「ああううえんお」で韻踏んでたり、言葉のコントラストが強いってとこだったりありますが。最終的には音楽でしか表せないポイントと云うか、喜怒哀楽を超えたものや、光も闇も善も悪も超えたところを自分なりに一番短く言語化した形って感じですね
編:デビュー当初から、world's end girlfriendの世界観は固まっていたのですか?
weg:world's end girlfriendの世界観をどういう風に見せて、どういう風に聴かせたいかは決まってました。小学生や中学生の頃に作った曲を聴いても今とやってることと根っこはあんま変わんないな~とも思ったり。
編:世界観の構築とプロデュース力にも長けていらしたのですね。その後もコンスタントにアルバムをリリースし、圧倒的な地位を築いていったwegさんですが、ご自身のレーベルを立ち上げようと思われたきっかけは何だったのですか?
weg:weg自体をどういう風に見せたいかも決まってたし、1stからずっと曲作りもリリーススケジュールも自由にやらせていただいてたので、アルバムを制作する費用があれば自分のレーベルも作れるなあと2008年くらいに考えてました。それは自身の作品に対して最終的な判断ができる権利を自分でちゃんと持っておきたいということでもあり、今後のデジタル化していく音楽の世界では自身で作品を完全にコントロールできる権利は持っておかないとダメだなとも考えてました。ただ、自身の作品だけリリースするレーベルにしてしまうと、面白味や広がりがないので、2010年に当時同じようなことを考えてて、音楽的にも共感できるアーティストを数組誘って「Virgin Babylon Records」を立ち上げました。
編:その際はどんな基準でアーティストを選ばれたのですか?
weg:枠組みからはみ出してるんだけど、ただはみ出したものではなく、その人自身の音楽が本当にそうである必要だったもの、というか。あと、レーベルとしても同じジャンルというか似たスタイルの音楽ばかりを出すのではなく、もっと深いところで繋がった音楽を出していきたいとも考えていました。レーベルとしては原盤権はアーティスト持ちであったり、他のレーベルからも自由に作品を出すこともOKにしようとは考えてました。
編:それはユニークな試みですね。所属アーティストに理解があるというか。
weg:自分がそうだといいなあって形にしたというか、レーベルはアーティストの発表のひとつの良き場であればいいなと思っています。レーベル内のアーティスト同士で刺激を受けたり与え合えるのもとてもいいですね。
編:なるほど。では「Virgin Babylon Records」の特色は何だと思われますか?
weg:いままで20組ほどのアーティストの作品をリリースしてきましたが、いずれもその人にしか作れないという音楽を作っているアーティストが集まっていることでしょうか。このレーベルの活動を通じて、リスナーの耳や価値観が拡張するきっかけになればいいなと願っています。かつて自分も色んな音楽に耳を拡張されてきたので。
編:レーベル運営のメリットとデメリットを教えていただけますか?
weg:もちろん運営には雑務も多いですし、物理的に時間も取られますが、デメリットよりも良いところの方が多いです。所属しているアーティストたちが自分には作れない音楽や自分が好きでもやれない音楽を発表していくことで間接的に自分もその喜びを味わえるというか。それは意図してなかった喜びでした。あと、2年に1度、レーベル主宰のイベント「Virgin Babylon Night」も開催してるんですがそれも楽しいですね。
編:2019年は11月2日に渋谷のWWWで開催予定なんですね。
weg:それはレーベルイベントではなく、weg個人での主催イベントですね。出演者もweg以外は全てレーベル外のアーティストでCRZKNY、mizuirono_inu、Kazuki Koga、Ema Yuasaに出演してもらいます。個人的に対バンしたいというか自分が観たい人を呼んだだけというイベントで、チケットも価格自由で購入できるという試みです、これをきっかけに観客も出演者にも新たな出会いが広がってくれるといいなと思っています。
編:各アーティストに伸ばしてほしいこととは何ですか?
weg:そうですね、結局、その人ならではの音楽を磨き続けること、尖らせ続けることでしょうか。その方が道は広がると感じています。本当にオリジナリティがあれば、あとは勝手に広がっていくと思います。まあ、それは理想でもあり一番まっとうで一番難しいことでもあるのですが。実際、world's end girlfriendの音楽も海外にある程度は勝手に広がってくれたという経緯があり、現状リスナーの半数以上はアメリカやアジア、ヨーロッパなど海外のリスナーなってますし。
編:wegさんが今後、一アーティストとして、またレーベル主宰者としてリスナーのみなさんに届けていきたいものは何ですか?
weg:world's end girlfriendとしては「わけがわからないものだけど、それを自分がとても好きなのはよくわかる」というような作品を届けたいですね。ただ綺麗な音楽などは作る気は無いです。自身の音楽を追求し続けることによって自我を超えてより自分になっていくというか。音楽をとてつもなく大きな木だとしたら、今を生きる我々が作っているのは枝の先の先の先の先の小さな部分です。それでも手を抜くことなく何十年も作り続けることによって、新たな枝分かれが起きるかもしれない、それによって新たな場所に光があたり花が咲くかもしれない、という感じかな。
編:それはなんとも壮大ですね。wegさんの創作の源泉とは何ですか?
weg:子供の頃から音楽も映画も本も好きだったので、これまでの大量のインプットが創作の基礎部分になっていると思います。中1の頃には百科事典の全ページを見て脳に焼き付けていこうとしたり、10年後とかに熟成して何かになるかも?と妄想しながら(笑)けど、現実で人から受ける体験や感情はとても大きく軽々とフィクションを超えた刺激を受けることはたくさんあります。そこは大きく作品に影響ありますね。
編:日常的な大量のインプットや体験や感情が、wegさんの独創的な作品を支える強靭で豊かな土壌を作るのですね。ではアウトプットとなる創作時間にはどれくらいかけているのでしょうか?
weg:昔は1日で1〜2曲作ることもできたのですが、あたりまえに年々完成度のハードルは上がっていくので、いまでは1曲作るのに数ヶ月はかかります。
編:それは胆力も体力も必要ですね。健康管理はどのようになさっていますか?
weg:基本的に座り仕事なので、ストレッチはよくしています。ランニングも好きです。子供の頃から長距離走、実は早いんですよ。5kmくらい淡々と走っています。もういい歳なので、昔よりは気を遣うようになりましたね。
編:後進の表現者にアドバイスをいただけるとしたら何ですか?
weg:う~ん。あまり若い人にアドバイスする気はないんだけど、あえていうなら、自分の作品を作っている時に「こうするべきか」「ああするべきか」悩む分かれ道に出会った時に自分が本当に望む道を選び続けることができるか、それを何百回何千回繰り返し選び続けることによってその人だけのオリジナルな音楽になっていくと思います。まあそれは商業的に成功するかどうかは別ですがーーー
編:wegさんがよく使ってらっしゃる「抵抗と祝福」とはどういう意味なんでしょうか?
weg:「抵抗と祝福」っていうのは「誕生」のことであり「生命」のことでもあり、この世界がどんな様相であったとしても「誕生」が一番純度が高い「抵抗」であり「祝福」で、自分にとっても「音楽」も同様で「抵抗」であり「祝福」であります。
編:なるほど、wegさんの中には個々の人間そのものの存在や生命への圧倒的な肯定があるのですね。では最後に、wegさんが思う「自由」とは何ですか?
weg:もう「自由」という言葉にそれほど惹かれはしないのですが、完全に自分だけが自由で生きてくことは面白くないし、誰かのための不自由さも受け止め、その上で世間の幻想に惑わされず自分の中に小さな自由を持っていればいいかなと思います。今は「自由」も「不自由」もどちらも可愛いなって心持ちです。
[1960 Fender Stratocaster] 青木裕から譲り受けた大事なギター。作曲の作り始めにまずは手にする。
[acs Emotion] 自宅以外での音楽鑑賞の日々のお供イヤホン。
[YAMAHA UD-Stomp] 一台の中に8つのディレイが組み込まれた狂った逸品。これでしか出せない音ある。
[志賀理江子「螺旋海岸」] お気に入りの写真集。いろんなものが渦巻いてて飲み込まれそうなほどの強度ある作品。
音楽家/レーベル主宰
かつて多くの隠れキリシタン達が潜伏した長崎県の五島列島に生まれ、10歳より独自に音楽/作曲をはじめる。カンヌ映画祭に出品された是枝裕和監督作品「空気人形」の映画音楽を担当。クラシカルな楽曲からエレクトロニックな楽曲、ノイズからAKB48ドキュメンタリー映画音楽まで圧倒的美醜と振り幅で活動し続ける。2016年、アルバム「LAST WALTZ」をリリース。健全優良魑魅魍魎が集うVirgin Babylon Records代表取締役。
world's end girlfriend Twitter
Virgin Babylon Records Twitter
LAST WALTZ IN TOKYO
MEGURI
Boy
LAST WALTZ REMIX
LAST WALTZ
在りし日の声 Voices of Days Past
ゆでちゃん/Yudechang
Story Telling Again And Again
Starry Starry Night O.S.T.
SEVEN IDIOTS
空気人形 O.S.T. サウンドトラック
Enchanted Landscape Escape
Hurtbreak Wonderland
Palmless Prayer / Mass Murder Refrain
The Lie Lay Land
dream’s end come true
farewell kingdom
ending story
「l WANT」
world's end girlfriendが個人的でシンプルな欲望によって主催/企画された無料or価格自由イベント「I WANT」が
2019年11月2日(土) 渋谷WWWにて開催決定。
出演は
world's end girlfriend,
CRZKNY,
mizuirono_inu,
Kazuki Koga,
Ema Yuasa,
world's end girlfriendは喜怒哀楽のその先にある音楽を爆音演奏し、
CRZKNYは電子音~テクノ~ジューク~ガバ等の境界を低音と共に悠々と越え、
mizuirono_inuはアホさとエモさ、下品さと切実さの新たなカオスを響かせ、
Kazuki Kogaは圧倒的なフィジカルさと伴った超自然的電子音楽を鳴らし、
Ema Yuasaはwegによって制作・エディットされた音楽に合わせ深淵のダンスをみせる。
会場:渋谷WWW
開場 16:30 開演 17:00
チケット:無料 or 価格自由
peatixから1000円から10000円まで選べる価格自由チケット(発売中)。
チケットinfo:
https://iwant2019.peatix.com/
*1ドリンク代別。
*当日無料でも入場できますが、規定人数に達した場合は入場締切になりますので確実に入場したい方はpeatixにて電子チケットを確保ください。
*チケット価格違いによる特典などは全くございません。
僕はworld's end girlfriend(※以下weg)の音楽を聴いて、自分の才能の無さに気付かされた1人だ。それくらいwegの音楽初体験は強烈だった。
この場でwegの音楽について語るのはさけるが(とまらなくなってしまう)インタビュー中に出てきたこの言葉だけは関連付けさせて欲しい。
「抵抗と祝福」
~この世界がどんな様相であったとしても
「誕生」が一番純度が高い「抵抗」であり「祝福」~
この言葉は名盤「Hurtbreak Wonderland」内の「birthday resistance 誕生日抵抗日 」の曲名になっている。
作品は口ほどにものを言う。
wegの意思と創りだしたモノはイコールであり矛盾していない。そう感じた。
それを継続する事がどれだけ自律が必要でピュアなことか、読者の方には伝わるだろう。
感じた人柄についても触れておこう。氏は日常において人に対してとっても穏やかだ。
でも意思は明確で決して臆さない。
ミステリアスな印象がありちょっと怖そうだが(僕も最初ライブで見た時は幽遊白書の鴉かと思った)本当に優しく僕のくだらない冗談にも笑ってくれるナイスガイだ。
人がついてくるのも理解に容易い。
最後にこの記事を読んでくれた方にwegのこの言葉を引用させてください。
「世間の幻想に惑わされず自分の中に小さな自由を持っていればいい」
快く取材を引き受けて頂いたworld's end girlfriendに最大の敬意と感謝を。
FREEZINE サシ