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2020.01.03

池永正二 インタビュー | 日々の生活の中での心の動きを 音に落とし込む。

取材・構成:清水 里華 撮影:ゆうばひかり

実験映像からジャンク、ノイズ、アヴァンギャルドを
駆け抜けた青春時代。

編集部(以下、編)  :叙情派エレクトロ・ダブ・バンド「あらかじめ決められた恋人たちへ」 (略:あら恋)のリーダーとしてアーティスト活動を続けながら、映画の劇伴(=伴奏音楽)制作も手がける池永さん。どのような経緯で音楽に携わられたのですか?

池永正二(以下、池永):もともと大学に通っていた頃からジャンクバンドをやっていたのですが、1997年からは宅録で電子音楽を作るようになり、それが「あらかじめ決められた恋人たちへ」というソロユニットになりました。よく分からないものがすごいと思ってたので、本人もよく分からなまま訳の分からなものを勢いでやっていたと思います。楽しかったです。ダークな激しい電子音楽の後にセンチメンタルな鍵盤ハーモニカが響くとそのどっちつかずな曖昧さが儚くて好きでした。

編:変わった名前ですが、ユニット名の由来は?

池永:『あらかじめ失われた恋人たちよ』という映画があって、そのタイトルがパワフルで好きだったんです。電子音楽やダブ界隈でこういう長い日本語名のアーティストも少なかったので。

編:大阪芸術大学の映像科をご卒業されたとのことですが、卒業後は関西アンダーグラウンドを代表するライヴハウス「難波ベアーズ」でアルバイトしながら音楽活動を続けていたのですよね。

池永:はい、映像で食べていこうとか、将来の事はその頃あまり考えてなかったです。卒業制作も実験映像というか、ひたすら砂嵐の映像を作る、という内容のものでした(笑)。でも企画段階で作る意図とか意味とかプレゼンしないといけないんですが、そこでボロカスに言われて。当時は「意味のあるノイズとかノイズちゃうわ!」って憤慨してましたが、今になってそのありがたみが分かります。卒業して、バンドで出演していた難波ベアーズで働かせてもらって、タフな方々の洗礼を受けました。ルーツは完全にベアーズです。僕の基本はここで歪んでると思います。東京に来てそう思いました。当たり前だと思っていたことが当たり前じゃなかった。それは結婚して就職した時も同じで。今まで積み上げて来たものが社会では全くお金に換算されない類の価値だと気づいて愕然としました。それでも音楽は続けていて、アルバムを出したり。でも売れないし、売れる可能性すら感じないし。でも最後に働いていた会社は僕の音楽を応援してくれたり、今でも先輩がライブを観に来てくれたり、とても辛い時期だったので、ほんとに感謝しています。

上京してソロユニットからバンドへ。
そして、映画音楽へ。

編:会社勤めと音楽制作の二足のわらじ生活ののち、2008年に上京されていますが、きっかけは?

池永:俳優の山内圭哉さんが主宰する劇団が上演する『パンク侍、斬られて候』(注:芥川賞作家、町田康の小説)の舞台の音楽を担当させてもらって。そのころ山内さんに音楽で食べて行く気あるんやったら東京に来たらええ、と言われて。友達も上京ラッシュの時期だったので、流れに飛び込みました。

編:上京された後に「あらかじめ決められた恋人たちへ」をバンド編成に変えたとのことですが、理由は?

池永:大阪でもバンド編成でやってたんですが、東京で目立つにはもっとしっかりバンドでやっていこうと思いました。それで、すでに上京していた元々大阪でも一緒にやっていたキムと、難波ベアーズによく出演していた劔幹人と、テルミンのクリテツさんに声をかけたんです。

編:その頃から、大学時代の同期の映画監督による映画作品の劇伴も手がけられるようになったとのことですね。劇伴はどのように制作していくものなのですか?

池永:良い曲が良い劇伴というわけではないので、その作品がどういう作品なのか話したりデモを作ったりして制作していきます。映像と音楽が一緒になると、映像も音楽もそれ単体で体験する時のイメージとは違ってくるので、相乗効果でイメージが広がった時はむちゃくちゃ嬉しいです。いつも初めは不安ですが。
編:仕上がりのジャッジは監督がされるのですか?

池永:はい。監督が「良いね」ってなればその作品においては正解だと思います。僕が「これあんまりやなー」と思う音楽に対しては、監督も良くないと思いますし、そこは信頼しています。

アーティストとして、劇伴作家として、
世界観を音で作り上げて行く。

編:劇伴と、ご自身の創作の違いは何ですか?

池永:劇伴は、多くの人で作り上げる世界観に音楽で参加する感じですが、「あらかじめ決められた恋人たちへ」は世界観そのものからバンドで作り上げてきます。

編:「あら恋」の世界観は、どのようなところから生まれてくるのですか?

池永:普段の生活の蓄積です。知ってることしか歌えません。作業も自宅なので、普段の感じは意図せずとも入って来ます。思った事を音にしよう!ってよりも、作って行くうちに染み込んでいくもんなので。しかもインスト音楽だから曖昧ですし、思った事をメロディにしても伝わりづらいですし、悲しみのメロディと言われてもポールモーリアか!って感じでしょ。だからコツコツ作り続けて行くうちに入り込んでくる日々の雰囲気が嘘くさくなくて良いなと思ってます。

編:日々の気づきをメモに取られていますか?

池永:取れないです。取ろうとして言葉に置き換えようと言葉を探してるうちに何を思ってたか分からなくなるので(笑)。取れなくても頭のどっかには残ってると思うので、それがポン!って繋がって出てくる時がありますし、音楽なのでそれくらいがいいかなと思ってます。

編:今回発表されたNEW ALBUM「 . . . . . . 」の解説でも、「危機感と安心感、希望と不信、等……いろんなものの間を行き来しながら音を紡ぐ。つまりは日々のこと。日々の「……」を音楽に焼き付けていく。」と書かれていましたね。社会の大きな流れを感じながら、生活を通じて心を動かされる瞬間を音に焼き付ける、そんな風にしてあら恋の世界観が出来上がっていくと。

池永:かっこよく言うとそうなんですが、真面目に妥協しないでやりたいことをしっかりやるって事です。作品は残って次に繋がって行くので。

絶対にいいものを作るために、
手応えが掴めるまでもがき続ける。

編:日頃から音を作りためて行って、どのタイミングで仕上げにかかるんですか?

池永:パズルみたいにババってハマるタイミングがあって。「もう作らな!」って焦ってる時が多いです。手応えのあるイメージができると作れるんで、そっからは2ヶ月くらいで作れました。

編:逆に、手応えがないと仕上げられないというか。

池永:自分で手応えのあるワクワク感がないと、とりあえず間に合わせましたよ的なものになりますし。それは嫌なので、自分が「お~来た~!」って納得行くまで頑張ります。

編:納得が行くまで自分に嘘をつかず作り込めるのは素晴らしいことですね。

池永:ある程度の嘘は自分に付きますし、誤魔化しもします。「嘘を付かず誤魔化しもしません!」って言う人の言葉にはなんだか嘘を感じますし。ですが誤魔化しが効かない部分、ここを誤魔化してしまうとダメな箇所があって、そこだけは何があっても真摯に向き合っています。それが何かは一言では言えないんですが、虫唾が走るほど嫌な瞬間が時々あって。そのイヤ~な感じは吐き出さないとどんどんしんどくなるので、そこから自由になる為の音楽というのか。すごく伝わりづらいですが。

編:なるほど。では、池永さんにとって自由とはなんでしょう?

池永:みんな好き勝手に自由にやると必ず争いになります。だから規則や法律が生まれて来たと思うんですが、それがインターネットで情報が出回ってSNSで他人の生活が見えるようになると、今まで自由だと思ってたことが他人と比べて不自由に思えてくる。だからいろんな所に歪みが生まれて来ていて。でもそれは良いことだと思います。新しい価値観は面白いですし気づきは次に繋がります。ですが比べてしまうと損得勘定になりますし、他人と比べて生まれる向上心は必要ですが、卑下して拗ねてしまうと他人に攻撃的になってしまいます。そこで自分自身にちゃんと向かえる人になりたいです。「やっぱり自分は自分のやりかたでやっていく」っていう自信があれば、比べたところで人は人なので。だから拗ねず、希望を持って、って小学生みたいですが(笑)。そうやって他人に頼らず自分自身の中で得られた自由は強いと思います。自由にSNSで主張できる時代だからこそ同調圧力が生まれて来たのであれば、もっと自由に他人を認めるやさしさが必要だし、やさしくなりたいです。人としてちゃんとしたいです。

フラットな視点で世界を知ること。
自分の音楽を世界へ広めて行くこと。

編:世界の社会状況を冷静に分析されている池永さんですが、日々の情報源は何ですか?

池永:新聞にネットにテレビにいろいろ見ますが、やぱり情報はその発信者の見方が入ってくるので、あまり熱狂しないようにはしています。数字も、ある立場から見た意見を立証するための証拠なので、鵜呑みにしていいものかどうか。疑った方が性に合ってます。なので、人と話して「そんな見方があるんや」と、情報でワイワイしてるのが楽しいです。その中で自分の意見は浮かび上がってくるので。情報よりも体験とか人とか、そっちの方がリアルで好きです。

編:日頃の健康管理はどのようになさっていますか?

池永:家の中でずっと作業ばかりしていると体力が落ちているので、走るようにしています。走ると気分転換できて、煮詰まっていたものが解決できそうな気分になったり。なので、自分の考えは走るだけで変わることのできるレベルのものなんだと過小評価するようにしています。すぐ自信過剰になってしまうので。あと元水泳部なのでプールに行ったり。

編:池永さんの今後の目標はなんですか?

池永:良いレコ発ライブして、良い劇伴作って、いろんな音楽作って、海外で活動して、一つ一つが必ず繋がって行くので。ほんと一歩一歩、手を抜かず良いと思えるものを作り続けて行きたいです。

1日のタイムテーブル

  • 09:00起床
  • 10:00作業
  • 13:00昼食
  • 14:00作業
  • 18:00夜食
  • 22:00作業
  • 02:00就寝

[鍵盤ハーモニカ SUZUKI PRO37v2]ずっと使ってる。音が大きいので爆音バンドでも 成立する。しかもむちゃくちゃ良い響き。

[MC303]ダサいのがかっこいい、を超えた 本当のダサさがあるので、かっこいい。

[自転車]行けるところはほとんど自転車移動。 東京は坂がとても多いので奮発して電動自転車。 元は取ってると思う。流れる景色が音楽と 相まってペダル漕ぐ速度はやまって。

[土鍋]これでご飯炊いたらむちゃくちゃ美味しい。 炊飯器で保温にしてたらカチカチになるので、 土鍋で炊いて残ったら冷蔵庫。

PROFILE

池永 正二
(イケナガ ショウジ)

ミュージシャン/トラックメイカー

1976年、大阪府出身。97年より叙情派シネマティック・ダブ・ユニット「あらかじめ決められた恋人たちへ」として活動開始。フジロック等、幾多の大型フェスに出演。一方で映画音楽でも活動の場を広げ、主な作品に『味園ユニバース』(15/山下敦弘監督)、『モヒカン故郷に帰る』(16/沖田修一監督)、『武曲MUKOKU』(17/熊切和嘉監督)、『宮本から君へ』(19/真利子哲也監督)等がある。

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LISTEN

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作品一覧

ライヴ情報

【あらかじめ決められた恋人たちへ ワンマンライブ】

「……」Dubbing XI
2020年1月10日(金)@新代田FEVER
時間:開場 19:30 / 開演 20:00
料金:ALL STANDING 3,500円(1ドリンク別)

「……」Dubbing XI 大阪
2月15日(土)@大阪 北堀江 club vijon
開場:18:30 / 開演:19:00
料金:ALL STANDING ¥3,500(1ドリンク別)

「……」Dubbing XI 名古屋
あらかじめ決められた恋人たちへ x LITE
2/16(日) @名古屋JAMMIN’
Opening Act : sozoro座mode
開場:17:00 / 開演:17:30
料金:ALL STANDING ¥3,500(1ドリンク別)

インタビューを終えて 〜FREEZINE編集長の編集後記〜

音楽とライブ映像でしか知らなかった「あらかじめ決められた恋人たちへ」池永氏はそのエモーショナルなステージングから勝手に気難しくて繊細な人かもな。。と想像していた。

が、その予想は大幅に外れた。

作中にも登場する白い自転車で登場した池永さんは穏やかで優しい笑顔を絶やさないイケメンお兄ちゃんだった。

もうなんだろう、3秒で感じる親しみやすさというか。この人を嫌いな人いないでしょっていう。
自分がクズなので相手がクズだとクズセンサーで大体わかるのだが池永さんからは微塵も感じない。天使の親戚みたいな人だ。

カメラマンのゆうばひかりとも話したのだがFREEZINE史上ナンバー1の取材しやすさだった。

ちなみに池永さんは前回取材させて貰ったworld's end girlfriendにご紹介頂きました。
もう何年も前からの友人みたいです。繋がってますよねー。
この場を借りてworld's end girlfriendに心からの感謝を。


池永さんの素晴らしさは文章だけでは決して伝えきれない。

言葉を発言している時の表情、眼光、空気。
少しでも現場の雰囲気に近づけるように今回は写真を多めに使いました。

作中に散りばめられた池永さんの人柄。発してくれた自由への警鐘。

〜自由に主張できる時代に同調圧力が生まれてくるのであれば、もっと自由に他人を認めるやさしさが必要だし、やさしくなりたいです。人としてちゃんとしたいです〜

この池永さんの魅力をギュっと集約するような強くやさしいことば。


この記事を読んでいただけたらあら恋のニューアルバム『……』を是非聞いて欲しい。

あら恋ニューアルバム「……」特設サイト

『……』の題名に込められた意味。
アルバムを通して聞いたあなたの感想。
点が繋がっていくと思います。

五感をフルに使って感じて頂ければ嬉しいです。

強い言葉が賞賛されもてはやされる今日に、
何かを考えるキッカケになれば。


ちなみに僕が感じた池永さんのイメージを例えるなら「幕末の志士」です。
わかる〜!って変わった人がいたら連絡ください。飲みにいきましょう笑


サシ