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2023.02.07

SOOOO × きくお 対談(後編) | VOICE from DARKNESS ~闇からの声~

取材・構成:清水 里華 撮影:ゆうばひかり

スランプへの向き合い方。

編集部(以下、編): SOOOOさんのように、実体験をベースにした作曲スタイルの場合、ジレンマやスランプはあるものなのですか?

SOOOO(以下、S):いや、ずっとスランプですね。基本的に自分の感情を具現化することだけを念頭においているので、曲作りにおいて取り入れる音とかを選んでいくときに、これじゃないこれじゃないこれじゃないっていうのを、とにかくそこに時間を費やして曲の展開だとか構成だとかもいろいろ試したりするんですけど、結局僕は周りの受けとかどうこうではなくて、それで自分の感情が成仏されるのかどうかってことばかり考えてしまって、それの最適解みたいなのを見つけるのに数か月もかかってしまうみたいなことがあるので、基本的に年中スランプですね。

編:ここまでの音を作らないと自分の魂は浄化されないみたいな。

S:そうですね。そこだけしか考えてないです。それで万が一ヒットしてくたらラッキーだなって、さっきの話にもつながってくるんですけど。

きくお(以下、き):それは激しい音になるよね。激しく音数多く濃厚な感じにはそれはなってくるよね。

S:そうですね。さっきの話につながってくるんですけど、さっき人の痛みは比べちゃいけないっていう話をしたと思うんですけど、人の痛みは分からないけど、だけど自分はこう思うよっていう自分の感情自体に従って自分の歌詞だったり曲の内容だったり曲調だったりをその曲一つに込めてるっていう、そういう感じではあります。それをずっと続けてるっていう感じなので生産率は悪いですし、音楽で成功していくってことを考えればほんとに非効率なことをやっていると思います。僕一曲だけYouTubeで200万再生いった曲があったんですけど、活動はじめた当初はどうすれば自分のこの感情が報われるのかっていうのがほんとに分からなくて、いっぱい色んな人に聴いてもらえればこの感情って報われるのかな、1万再生いけば僕は少しでも前を向けたりするのかなという風に考えていたんです。でも200万いっても全くそれは報われないどころか、もう音楽始めた当初と比べても自尊心が大きく下がっていると思います。

き:そこではなかったんだね。

S:そこではなかった。なので多くの人に聴かれるっていうことが多分活動の目的ではなかったんだなって、そこで分かりましたね。

編:やっぱり出し続けるっていうか?

S:そうですね。正直この活動で自分の今のやり方を続けていくことで、自分が報われるかどうかってのは分からないです。それで幸せになれるだとか音楽を作らずに済むようになるとか、そういうのって今も分からないんですけど、自分はそうすることでしか生きられないからっていう。そういう感情だけでいってると。それで報われるかどうかは分からないけど、それでも自分はそうしたい、後悔したくないっていう気持ちでやってるっていう感じですね。

き:スランプに対して気合で傷つきながら進むっていうイメージがある。スランプつらいけど、そのいばらの道を血まみれで進むしかないみたいな、そんなイメージがなんか。

S:ですね。ほんとにきくおさんみたいに要領よくやりたいなっていう風にはずっと思ってます。

き:俺は隙がない話し方を後天的に身に着けただけで相当要領悪いですよ。だってこの前まで、2年間曲作れなかったもんね。周りの目とかが気になりすぎて。と、さっきも言ってた有意識の方がめちゃくちゃ肥大化しちゃってみたいな時期が、ちょっと前まであって。

編:2年間って結構長い。

き:そうなんですよね。一番でかいスランプでしたね。無意識の方にアクセスできなくなってきちゃったんで当然なんですけど。だからそのとき曲作ろうと思ったら8時間か10時間ぐらいずっと散歩するんですよね。山道を。で、完全に疲れてもうなんも考えられなくなって家帰ってぶっ倒れて、ようやくそれで曲できたみたいな感じ。なんでなのか分かんなかったんですよ、そのときは。でもそれでそのときそのぐらいのタイミングで、海外で『愛して愛して愛して』って曲がヒットして。ヒットと言って多分差し支えない規模だとは思うんですけど、我ながら。それでお金が入ってきて2年ぐらい休める期間ができたんですよね。それから思いっきり心の旅をして、なんとかして今どんどんまたペースあげていってるっていう状態になってますね。だからスランプはありますし、一概に言えないですよね。スランプって名前ついてますけど、ただのなぜか作れなくなる期間のことを指すって、すごい抽象的な意味の言葉じゃないですか。だから全く人によって事情違うし重みも違うし、締め切りだけ設ければ作れるみたいなときだってあるし、まともに向き合おうみたいなときもあったりしますね。

編:来たら来たで「そのときだ」みたいな?

き:そうですね。対処法は全く違うから、それも自分の人生の旅の一つだと思って、ちゃんと対処してくしかないっていう感じですね。

ゲーム「OMORI」とトレーラーソングへの想い。

編:お二人がゲーム『OMORI』のトレーラーソングのカバーをされていることで、リスナーからお二人のOMORIへの思いを語ってほしいというリクエストをいただいています。

き:そもそも俺、インディーズのRPGツクールのゲームが好きなんですよ。そもそもそこからなんですけど。インターネット芸術育ちなんで、その中でホラーじみたのとか、例えば『ゆめにっき』とかっていうゲームですとか、もっとさかのぼっていくと『MOTHER2』とか。あとプレステでいうと『LSD』っていう名前のゲームとか、奇ゲー、珍しいホラーゲーとかからやり出すんですけど。そういうホラーじみたゲームっていうのは元々すごい好きで、かつドット絵でちょっとインディーズっぽいというか、完成され過ぎてなくて雑だけど勢いがすごいあるみたいなのがすごい好きだったんで、OMORIはそこの自分がたどってきたものとかそういうルーツとかを全部凝縮したゲームっていう感じです。で、どはまりしましたね。OMORIの作者さんからも直接リプライきて、きくおさんの曲が昔から好きだったっていってくれたんですよ。しかもその方も『ゆめにっき』だとか『MOTHER2』だとかそのルートたどってきてるんで、そりゃもう刺さるよなって。特に一番好きなのは、自分の内面の世界が広がっているところで、自分の内側の世界がめちゃめちゃに具体的で、めちゃめちゃに広大でっていうところにすごいシンパシーを感じてて。ずっと俺一人っ子でいじめられてたし、ずっと周りに人がいないようなとこで育ってきたので一人遊びしかすることないんですよね。あと、生まれながらにして、その日一日の現実体験より長い夢を毎日必ず見るみたいな体質でもあったんで、すごいシンパシーを感じて好きな部分だったりします。また、子ども時代っていうのもすごい好きだし、もちろんキャラクターも魅力的だし、完成度はとにかく素晴らしいっていうのでもう衝撃的でした。トレーラーを見たときからプレイするのが楽しみでした。そのトレーラーの音楽が『My Time』っていう曲なんですけど、それ作ったのが『bo en』さんっていうイギリスの方で、そのbo enさんも自分の曲好きだといってくれてて、そりゃまあ自分が好きになるよなっていう。そういう出会いだったりしましたね。

S:僕は逆に、幼少期のころはゲームをやってたんですけど、うちにあったゲーム機を壊されてからゲームをやらなくなってしまって、そこからずっと音楽しか聴いていないみたいな感じでした。なので僕はきくおさんと比べてゲームに精通してるとかではなかったんですけど、僕の投稿した曲のコメントにファンの方から、僕の曲の世界観とOMORIっていうゲームの世界観にすごい共通点を感じますみたいなコメントがいくつかきたことがあって、僕のファン経由でそのOMORIっていうゲームの存在を知ったっていう感じです。たまたまYouTubeで見ていたVTuberがOMORIのゲーム実況をやっておりまして、冒頭部分辺りだけだったんですけど、その世界観にすごく魅了されてしまって、かつ僕のファンがめっちゃおすすめしくれたっていうこともあってこれちょっとやってみようかなって思って、ほんとに久しぶりにゲームを自分で買ってやったんですけど、それをクリアしたときに僕大号泣しちゃって。大号泣して一週間くらい立ち直れなくてずっと放心状態で、まともな生活を送れなかったぐらい、ほんとにそれくらいの衝撃を受けてしまって。

き:なるなるなる。bo enさんも寝込んだって言ってたもんね。

S:クリアしたあと、あまりにも衝撃的すぎてちょっと寝込んでしまいまして。OMORIはネタバレ厳禁のゲームなのであんまり詳しくは話せないんですけど、ゲーム自体のテーマと、僕が音楽を作る目的みたいなものに少し共通点がありまして。正直OMORIをクリアした瞬間に、一瞬だけですよ、ほんの一瞬だけですけど、「あれ、僕音楽辞めてもいいんじゃね?」と思っちゃったくらい、僕が音楽をやり続けることで成し遂げたかったことをOMORIでもうほんとに完璧なまでに表現されてしまっていて。

き:それは思った。これはやられたって思った。やり終わったあとに。こういうものを作りたかったって俺思った。

S:クリアした瞬間に、周りでやってる人がきくおさんしかいなかったので、もうほんとに号泣しながらきくおさんに長文のお気持ちLINEを送るっていう。

き:「分かるー!」って言って。

S:で、クリアして半年以上経って、ちょうどそのころ僕はいろんな病に犯されて自分の一次創作への意欲が湧かなかった時期だったんですけど、そのときに心の休息としていろいろ思考を巡らせていたところ、やっぱりずっと残っていたのがそのOMORIっていうゲームのことで。それがずっと頭の中に残り続けてて、そこで僕ちょっと久々に人と交流しようと思って、OMORI好きの人とネットで少し関わってた時期がありまして、自分の活動のことを隠して。その方々は二次創作とかをやっていらっしゃったんですけど、「どんな形でもいいからSOOOOさんのOMORIへの愛を表現してみたら?」っていう言葉をいただきまして、それをきっかけにOMORIのトレーラーソングであるMy Timeっていう曲をカバーするきっかけになって…。

き:そんな思いがあってカバーしようって頑張って作ってるときにさ、俺が先にやっちゃったんだよね。

S:ちょうどそのタイミングにきくおさんからLINEで「さいたまスーパーアリーナでOMORIのMy Timeカバーした」っていう連絡が飛んできて、え!それ僕今作ってるんですけど!って。僕にとって大事な作品だったんですよ、ちょっと!って(笑)

き:もう一番いいところで発表しようと思って、初めてさいたまスーパーアリーナでのLIVEでバンって世に出して。そこでSOOOOさんには「きくおに続いて」って言われ続ける呪いをかけた(笑)

S:僕、基本的に創作関連で人に嫉妬することってほぼないんですけど、そのとき初めて嫉妬しました。

き:まさかのタイミングだったよね。

S:実は僕、音楽制作を趣味だと思ったこともないですし、やっぱり自分の排泄ではあるので、音楽をすることが楽しいと思ったことは一度もないんですね。曲を作り続けること自体が苦しみそのものだけど、でも僕はそうするしか生きられないからっていう思いでやっていました。でもそのOMORIの二次創作で、二次創作っていう行為自体が僕にとっては初めての体験だったんですけど、そこで僕、初めて趣味って言えるようなことを成し遂げられて、純粋に作ってて楽しかったんですよね。音楽作ってて初めて楽しいって思いました。なのでそれはすごくやってよかったんですけど、まさかのタイミングでした。

き:不幸の星に生まれてきた。

S:ほんとに。はい。

編:ちなみにきくおさんはなぜ二次創作をしようと思ったんですか。

き:もちろんOMORI自体とか、そのトレーラー見てすごい感動したのもありますけど、車の中で流して聞いてて、「これ俺がリミックスしたらおもしろいんじゃね?」ってふと思っちゃった感じですね。「あれ?いけんじゃね?」って。「ライブも近いじゃん」と思って、「いける!」って、それでもうその日のうちに作り始めたっていうことですね、勢いで。お互いに作ってることは全く知らずに、俺がちょっと先に発表しちゃって。

S:ちなみに僕は元々SOOOO名義で投稿する予定がなくて、OMORI好きの人々の前でこんなもの作ってみたよみたいな感覚でワンコーラス分だけ作って発表したんです。元々それくらいのほんとに趣味程度の気持ちだったんですけど、僕が音楽始めてからずっと仲良くしてる『ムシぴ』くんっていうボカロPさんがいまして、その方もOMORIをプレイしていたっていうことをあとから知って、「My Timeのリミックスを作ってみたぜ。どんっ!」みたいな感じで軽く送ったら、「いや、これSOOOO名義で投稿しろ!」って言われて、じゃあするかみたいな感じになったんですけど、もう先にきくおさんがリリースしちゃってるし、このタイミングで僕が出すの?みたいな。先ほどきくおさんがおっしゃったように、「きくおに続いてSOOOOも」って言われることが目に見えていたし、実際そうなりましたしね。僕がYouTubeに投稿したときのコメント欄の半分以上が、おそらくきくおさんについての…。

き:かわいそうに。

S:そういうとこですよ。ほんとに。僕の不幸をいつも嘲笑うんですよ。この人。にちゃーって。

家族や友達からの反応と、それぞれに思うこと。

編:ありがとうございます。次の質問ですが、お二人が作る音楽について、ご家族であるとか友人とか見知らぬ人に話したことはありますか?

き:それおもしろい質問ですよね。それはありますよ。切り口は2つあって、まず1つ目は、ばれちゃったからしょうがないっていうことです。最初に暗い表現をネットに発表したのは『地獄底辺』っていう名義で、別の名前を持っていたんですけど、名は体を表すではありませんが絵を投稿する名義だったんですよ。それで思いっきり暗い落書きみたいなのをばーってあげてたんですけど、それが親と友達になぜかどっかでばれたってのが最初でしたね。一番濃い部分が最初にばれたっていう。だからそのときはみんなショックを受けてました。ポップな曲を作る音楽家だとみんなは思っていたので。普通に温厚な人だと思われてた。だから「どこで育て方を間違えたんだ」ぐらいのことを言われましたね。「お前の楽しい音楽が好きだったのに」とか、「人の見ちゃいけないものを見ちゃってすごい気まずいわ」とも普通に言われました。でも創作をしなきゃ生きていけないっていうのが自分の根っこにあるので、しょうがなく。そうなっちゃったらもうしょうがないじゃないですか。もうすでに作品がいっぱいあるんだから、どうしようもないじゃないですか。だからきついけど振り切っていくしかないっていうのがあって。もう1点は、ほんとに自分のためだけに作ってて、人に見られるのやだなあみたいなものですね。自分のためだけに作ってどこにも発表してないっていうはそこそこあります。やっぱり隠し持ってます。

S:それどっかで聞いたことありました。僕はそもそも先ほど申し上げたように、割と自分のトラウマだとか昔に経験したことを曲にしているんですけど、今はそのトラウマの要因となった人物とはもう関わりをほぼ絶っているような状態なので、基本的にその人たちに知られるってことはなくて、強いて言うなら親ですかね。僕、親とは今が一番良好な関係を築けていると思うんですけど、昔はいろいろありまして、ほんとに申し訳ないんですが、親に対する自分の負の感情をぶつけた曲もありますし、一時期結構険悪な関係になったりしたこともありました。うちの親は僕が吃音を持っているとか、周りの方から頻繁にいじめられてるっていう話とかも知っていたので、過保護になってしまってる部分があって、僕の身になにかあったっていうことを小耳に挟んだ瞬間、学校に連絡を入れたりみたいなことが結構あったんです。それがきっかけで僕をいじめた当人と僕で無理やり対面させられて、表面上仲直りさせられるみたいなことかがそこそこあったので、それがちょっと嫌というか、僕がなにか親に心配かけることで周りに迷惑かけたくないというか、そういう思いが自分の中でどんどん肥大化していって、基本的に自分のほんとに悩んでることとかは家族に絶対相談しないように決めていたんです。で、それが長年蓄積されていって、音楽をやり始めてから結局それも曲として出ちゃった部分があって。どうしても割と僕、親に対してはいい子って思われたくて、曲として排泄している自分自身を見られたくないっていう気持ちがすごくあったんですよね。それでもっと余計な心配をさせてしまうんじゃないかみたいなこととかもあったので、活動始めてから数年間は言ってなかったです。なんですけど、やっぱり家族って、どんなに心が離れていたとしても、切っても切れない関係ではあると思うんですよね。なので、そこに終止符じゃないですけど、つけたいなという機会が一度ありまして、そのときに自分がこういう活動をしていて、主に海外で結構聴いてもらえてるっていうような話をしたことが一度ありました。それきっかけにちょっと親との関係が良好になったのかなといった感じはありますね。

き:誠実に折り合いつけようとしたんだ。えらい。

S:でもそのときはあんまり言葉を発していなかった気はしますね、親は。ただ、僕のいわゆる代表作みたいな『Happppy song』っていう、現時点で一番再生されている曲があるんですけど、だいぶあとに父親がそれを勝手に聴いたのかな、YouTubeで。それでめちゃくちゃ絶賛してくれて。あの曲は僕の今までの自分の負の感情をとにかく詰めまくって大放出した当時の全力の作品だったので、歌詞の内容を父がどう思ったかはちょっとこわくて聞いてませんが、曲の構成だったり、メロディーだったり、いろいろこういう部分いいよ、みたいにすごく褒めてくれて、それがめちゃくちゃ衝撃ではありましたね。内容云々は置いておいて、僕の曲を褒めてくれたこと自体は素直に嬉しかったです。割とその曲自体も受けようと思って作った曲ではないし、こんなん絶対聴いてもらえないだろうって当時思っていたので、それを父親が聴いたらドン引きするんじゃないかっていうところはあったんですけど、割と今も定期的に聴いてるみたいなことを言われて。

き:うちの親と似ているようでちょっと違うんだよね。俺、暗い作品作るとき、実は高校のころの担任に相談したりとかしてましたよ。「自分は今から人を傷つける作品を作るけど、いいでしょうか」とか相談しましたね。「それがやりたいことならいいんじゃない」みたいなことを適当に言われたんですけど。でも親とは、家出同然で家を出てしまったので未だに仲が悪くて。ずっと家に帰らない期間が続いたんですけど、ちょっと前のお正月に帰省したときに「お前の曲は全然好きじゃない」みたいなことを普通に言われました。でも追ってるんですよ、俺の活動は。追いはしてるけど「曲は全然好きじゃないし、なんで受けてるのか分からん」みたいなことを言うし、「歌詞にあったこと、お前ほんとに実体験だったのか」みたいなことを言う。「そうだよ」って言っても、「それはお前の勘違いだったんじゃないの」みたいなことを言われたりとか。だから親との関係は全く折り合いついてないです。友達も「お前暗くない曲まだ作んないの?」って未だに。しょうがないですね。

S:うちの父親は音楽を特に好んで聴いてるっていう感じではなかったんですけど、僕が中学生ぐらいのときに『globe』にものすごくどはまりしてて、それをたまたま父親が知って、そのときの父親の好きな曲が『FACES PLACES』と、『Anytime smokin' cigarette』っていう、globeの全盛期の中でも尖った感じの曲だったので、「あ!僕もすごい分かる!」みたいなところはあったので、元々いろんな音楽に対して幅広く受け入れる視野の広さみたいなものをもしかしたら持っていたのかな、って。そういうところもあって僕の曲のこともちょっと褒めてくれたのかなっていうのはあったりしますね。

ボカロPとしての展望と未来とは。

編:では最後に、お二人が目指すボカロPとしての未来や展望について伺えますか?

き:ボカロでありながらボカロの枠を飛び出したいという風に思っています。例えば米津玄師さんとか一番代表的ですけど、ボカロの枠を飛び出してJ-POPの王になったじゃないですか。ボカロをやりながらにしてボカロ以外のところの人からも注目されるにはどうするかっていうのを考えていて、これも切り口が2つあると思っています。1つはネガティブな切り口として、ボカロがムーブメントとして収束してしまったときに、自分一人だけ脱出できるかっていうことですね。自分一人だけノアの箱舟かなんかみたいに、自分のファンだったりを連れてそっから脱出できないかっていうのがまず一点と、もう1つがやっぱり自分が他から注目されることでボカロがまたどんどん盛り上がっていくのではっていうことです。その具体的な方法としてはライブパフォーマンスが鍵になると思っています。カラオケで歌いやすい曲を作って、ボカロ好きな人がみんなでカラオケでスマホのアプリかなんかで歌ってとか、歌ゲ―やってとかいう楽しみ方だけだとボカロと一緒に沈んでしまうなというのがあって、そこにライブパフォーマンスっていうのを挟むことで、ボーカロイドの世界にこんなにやばいやつがいるっていうことを他の界隈にも発信できるのではないだろうかっていうのをちょっと考えています。なのでボカロとしての歌の強度っていうのはしっかり保ちつつ、ライブパフォーマンスの中で見たこともないような躍らせ方をする、どの文脈から見てもやばい奴みたいな。井の中の蛙だけど世界に通用する奴みたいな。なんかやべぇのがいるみたいな感じでやれないかっていうことで、今ちょっとその枠を飛びだそうとはしてます。でも、多分商業的なこととか戦略的な姑息なところでいくと、ボカロ以外に有名な方々とコラボレーションするのが一番早い道なんですよ。例えばEDMの人たちなんかとコラボして「なんだこいつは」って思われるってのが近道ではあると思うんですけど、俺すごい不器用なんでそれできなくて。そこは阻んでるですけど、今はそういう方向で考えてますね。あと10年後とかにやってもあんまり古い曲だと思われないっていうのもあって、長期戦なので。長生きするっていうのを考えているんです。

編:大事ですね。

き:短期的じゃなくてどうやれば10年後もこのまま続けていられるかとか、20年後30年とかも飽きずに聴かれていられるかっていう、そういう強度の曲をどんどん作っていくっていう。例えば今の時代これ流行ってるからこのままやりましたっていうのだと、そのジャンルが廃れたらそのまま廃れるじゃないですか。今、AIのボーカロイドって流行ってて俺も今使い始めてるんですけど、AIのボーカロイドって人間みたいに歌うんです。どっからどう見ても人間が歌ったやつとAIのボーカロイドが歌ったやつで違いがもうほぼ分からないぐらいの、それくらいの完成度のとこまで既にきてるんですよ。しかもそれが英語でも中国語でも日本語でも歌えるっていうすさまじい完成度のところまできてて。でも、それを今そのまま使っちゃうと「昔はAIのボカロっていうのは確かに有名になってたよね」って多分10年後聴かれなくなっちゃうんですよ。なので、そのAIとしてのボーカロイドを人間のリアルな音声としてパラメータができますと。で、そのできあがったパラメータに対して、ちゃんと自分のカラーで機械音声的な処理をものすごく入れていって、人間の歌唱としてのクオリティーを落としてちゃんと独自性っていうのをぼんっとあげるっていう使い方をすることで、何十年経っても、「あの時代の音だね」って言われない音になるっていうのがあって、そういう方向で今新しい曲を作ったりしています。創作でしか生きていけないというのが芯にあるので。創作だけでしか生きていけないってことは長期戦になるから、長期戦を見据えた上で作る。そうしないと死ぬから。バイトとか他の仕事にも就いてたんですけど、結局何もできなかったんですよ。なので、そういういろんな経験があって、音楽以外では生きていけないなという思いがめちゃめちゃに強いですね。

編:じゃあ人生をかけて音楽とともに生きていく?

き:そうですね。それしかないからそうするしかないみたいな。楽しいし、みたいな感じですね。

編:なるほど、ありがとうございます。SOOOOさんはいかがでしょうか。

S:僕は基本的に自分のために活動を続けてるっていう側面があるので、ボカロの未来とかっていう話とはちょっと趣旨がずれてしまうのかもしれないですけど、あえて言うなら自分が音楽を辞めるにはどうすればいいかっていうことですかね。創作をしている方の活動目的としては少し変な回答なのかもしれないですけど。自分が幸せになれるか報われるのかっていうのは正直今でも分からないし、このやり方で続けていくのが正解なのかっていうことも正直分からないです。僕ってものすごく自己評価が低い人間らしいので、今後もいろんな人に称賛してもらうとか、自分の感情の一部が報われるとか、いろいろ自分の中で成し遂げていくてことって増えていくと思うんですが、そのたびに多分自分の粗探しをしてしまうと思うんですよね。さっきも言った通り、この再生数を達成したから報われるかなと思いきや、「いや、でも日本では全く聴かれてないからな。無名だからな」という風になにかしら理由つけて。ほんとは自分のこの性格変えたいんですよ。もし生まれ変われるならこんな人間になりたくないですし。

き:その自己評価の低さとか作品の作り方とか、全て根っこにあるものがトラウマだから、そこがOMORIっぽいよね。トラウマっていうものが根っこにあるから、どのルートに行ってもちょっと地獄が見えてしまうっていうのがあったりする。OMORIって自分のトラウマによって自分の行動がどんどん地獄化していくゲームじゃない?基本的には。ネタバレ厳禁ではあるので序盤のさわり、序盤の序盤の話なんですが。そこがすごいOMORIっぽいなって思うし、SOOOOさんのユニークなところだなと。

S:なので多分これからも自分のダメな部分や粗を探して、自分自身でそこを卑下し続けてしまうんだとは思います。活動を続けていくにあたって、先ほどきくおさん言ってくれたように、必要であればボーカロイド以外の自分の歌唱を使うだとかいろんな方法を取り入れていくことで、自分のほんの一部でも少しずつ認めてあげられて、自分のことを少しでも許してあげられる、愛してあげられるところにつなげていって、ほんの一歩でもいいので未来へ踏み出していって、最終的に決していい人生ではなかったと思うけど、生まれてきてよかったなって思えるような人生にはしていきたいなって思ってます。きくおさんと違ってほんとにもう自分自身のことしか語れない、言えない自己中の人間でもあるんですけど。

き:明日死ぬかもしれんから、みたいな意識はやっぱあるよね。

S:そうですね。死の恐怖っていうのも常に感じて。

き:そう、長生きも考えつつ、でもどうせ明日死ぬかもしれんしなみたいなのもありつつ、自分の中では両サイド同時に存在する感じです。

S:僕、ずっと幼いころから死にたいっていう感情が奥底にあって、音楽を作り始めてからもしばらくそれが続いているんですけど、少しニュアンスを変えて言いますと、いろいろ命の危機にあったことがありまして、命の危機というか「あ、これ自分死んでしまうんじゃないか、殺されるんじゃないか」みたいなことがいくつかあって。そのときに僕、初めて自分まだ死にたくないなっていう感情が生まれたんですよね。音楽を始めたことで生きたいと思えてしまった。自分はこの世に生まれてきてよかった人間だと自分自身では思っていないけど、ここで死んでしまったら、自分自身が生きてきたことで生まれた感情だったりとか思いだとか、そういったものが全て無になってしまって、それを僕は全部まだ創作でやりきれていない。ここで死んでしまったら生まれてきた意味がほんとになくなってしまう。だからそれを成し遂げるまでは、成仏させてあげられるまではまだ死にたくないなというか、生きたいなというか、この世界に殺されたくないなっていう、そういう思いで今は続けているので、そういう死にたくないっていう思いが自分の中で芽生えたというか、発見できただけでも大きな収穫だったんじゃないのかなと思っています。

編:大変ヘヴィかつ貴重なお話をありがとうございました。

PROFILE

SOOOO
(ソー)

2014年末、自己嫌悪の捌け口を目的に作曲を始める。以降、一貫して少年時代のトラウマや心の痛みをテーマにしたボーカロイド楽曲の制作をし続ける。ノイズや金属音、自身の悲鳴さえもサンプリングした轟音の中でキャッチーで悲痛なメロディラインが際立つ独特な世界観が特徴。2018年作「Happppy song」が海外で話題となり、YouTubeとSpotifyでミリオン再生を記録。2020年、電子ドラッグイベント「DENDRA! Reincarnation」にライブ出演。

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きくお

1988年生。
2003年、音楽制作を開始。ゲーム音楽や、BMS・Muzie等のインターネット音楽に浸りながら、ゲーム音楽、アイドルソング、東方アレンジなど、裏方としての楽曲提供を中心に活動。
2010年、ボーカロイド楽曲初投稿。
2016年、ニコニコ超パーティー2016 inさいたまスーパーアリーナ出演。
2017年、高等学校用教科書「高校生の音楽1」(教育芸術社)、きくお feat. 初音ミクとして楽譜と顔写真掲載。
2022年、「愛して愛して愛して」Spotifyにおいて、VOCALOID楽曲再生数世界1位を達成。
同年、NHK「プロフェッショナル仕事の流儀 究極の歌姫 バーチャル・シンガー 初音ミク」長期密着取材を経て出演。

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