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2021.02.23

「自由な生き方」について改めて考える。

文:Ape

2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症拡大防止を目的として緊急事態宣言が発令された。
それにより、いつもは人通りが多く、交通量も多いはずの自宅近所からは人の気配がパッタリと消えてしまった。
緊急事態。非常事態。異常事態。どの言葉が適切かは分からないが、とにかく大変な世の中になってしまったのだ。
2021年1月7日に発令された2度目の緊急事態宣言とはそのインパクトが全く異なり、あの当時はネット上のみならず、リアルの場でも大の大人たちが平気で人を傷つけ合う程に世の中が混乱していたのだった。

僕は主にアパレルなどを扱うEC事業を生業とする自営業者であるが、2020年3月下旬からじわじわとその売上が落ち始め、緊急事態宣言が発令された直後は売上がガクンと下がり、ついには収入がゼロの日なども出てきてしまって、リアルに「死」というワードが脳裏にチラついた。
皆が血眼になってマスクやトイレットペーパーを奪い合っている頃の話である。娯楽や趣味にお金を投じる心の余裕など誰にも無いのだ。
これはまずい。未来が暗い。明日食う飯の心配で脂汗が止まらない。この状況を妻に話すのも怖い。と、気持ちがどん底に落ちて視界がブラックアウトしそうになった時、サラリーマン時代に鬱病を患って散々苦しんで、妻にも相当な心配と迷惑をかけたことを思い出した。
そうだった。こういうことは溜めてはいけないのだった。溜めて溜めて爆発するのが一番周りに迷惑をかけるのだった。と、改めて当時の教訓を思い出し、さっさと妻に自分の商売が立ち行かなくなる可能性があることをゲロって、恥を忍んで当面の資金繰りのためのお金を借りた。真っ暗になりかけていた視界がパッとお花畑に変わった。冷静に先々のことを考えられるようになった。お金は本当に大事である。

このまま家でずっと帳簿を眺めていても気が滅入るだけで、ろくな結果に繋がらない。それは経験上分かっている。心も体も不健康になると人間として終わってしまうので、せめて体だけは健康でいなければ、ということで、この頃妻と一緒に毎日ウォーキングかサイクリングをしていた。東京23区内の様々な場所に行った。行ったことの無かった街にもたくさん行った。いつもだったらこんなにゆっくりとした時間を過ごすことは出来ないので、今考えるととても貴重な日々だったと思う。
我が家には自転車が無いので、サイクリングをする場合はいつもシェアサイクルを利用していた。シェアサイクルとはウーバーイーツの配達員などもよく利用している自転車の時間貸しサービスで、東京のあちこちに拠点があるので借りた場所とは別の場所で乗り捨てできる、なんとも便利なシステムとなっていた。
例えば自宅から日比谷公園まで散歩をして、公園で遊んで、帰りは自転車で帰って来て自宅近くの拠点に返却する、というようなことが出来るのである。途中スーパーに寄って前カゴがパンパンになるまで買い物をして、一旦自宅に寄って荷物を置いてから自転車を返却しに行く、ということも出来るので、自宅近所にスーパーが無く、日頃の買い物をネットスーパーに頼っていた我々にはこのサービスがとても有難かった。(この頃ネットスーパーの需要が高まり過ぎて全然注文できず、実店舗に買い出しに行く必要があったので。)

街には看板が溢れている。
商店の軒先に掲げられた看板。商品をPRするためにビルに設置された巨大な看板。往来を行く人々に建物の名前を周知するための表札的な看板。ペットの糞の始末をしっかりしてくれ、という祈りが込められた手作りの看板。
普段はあまり気に留めていなかったが、ウォーキングやサイクリングが日課となってからは、それらの看板がやけに目に付くようになった。そんな数多ある看板の中から自分の感性に刺さるデザインのものを見つけると、なんだか心がほっこりした。夫婦でフェイバリット看板をプレゼンし合うのも楽しかった。
次第に、それらの看板をスマホで撮影していくことが我々夫婦の新たな楽しみになっていった。夫婦のフェイバリット看板写真コレクションである。

僕は昔から蒐集癖がある。今は自宅のスペースの都合で我慢しているが、20代前半ぐらいまでは初版の漫画本を尋常ならざる熱量で蒐集していた。
しかもそのコレクションをエクセルで五十音順に並べて表にして、A~Eのコンディションランクを自分で付けて管理していたのだ。
こうして文章にしてみると自分でも少し引くが、生まれつき細かい性格で、ちまちまと情報をアーカイブしていくことが堪らなく好きなのである。
そんな性格なもので、フェイバリット看板写真コレクションが溜まって来ると、今度はこれをまとめたWebサイトを作ってみたいという願望が沸々と湧いてくる。

・看板という切り口だけだと広過ぎるので、まずはマンションの看板に特化してみよう。
・自分の感性に刺さる看板(フェイバリット看板)の独自の呼び名を考案したい。
・ボキャブラ天国の「バカパク」や「シブ知」みたいに独自の評価軸を設けて、勝手に看板を評価していったら面白そう。
・さらに審査員風の一言コメントを偉そうに添えても面白いかも。

という感じでどんどんイメージが膨らんでいったので、妻にも協力してもらいながらマンションの看板に特化したWebサイトを実際に制作してしまった。下記がそのサイトの概要というか、コンセプトを説明しているページである。

The 感板 | ただならぬ何かを「感じる」マンション看板コレクション

よし、これで箱は完成した!あとはこの中に撮り溜めたマンション看板コレクションをブチ込みまくるだけだ!
なんて思っている間に緊急事態宣言は解除され、自分の商売も徐々に通常営業に戻っていったので、結局このWebサイトは作るだけ作って放置ということになってしまった。
本当はここに大量のマンション看板コレクションを掲載しまくって、さらにその先の展開として「原宿駅から徒歩で行く感板巡りツアー」という動画をYouTubeにアップロードしたり、看板屋さんに突撃インタビューをしたり、マンションブランドごとの看板の傾向を分析したコラムを執筆したり、色々とやってみたいこともあったのだが、それよりも何よりも自分の本業が忙しいということは本当に有難いことなんだなあと再認識できたので、これはこれで結果的にまあ良かったのかなと。平和な生活、平和な日常万歳である。

当サイトFREEZINEのCONCEPTには「背中合わせの不安やままならない現実と戦いながらも、自由な生き方を決してあきらめない。」という一文がある。
今回、あの混沌とした緊急事態宣言下の世の中の状況を振り返りながら、あの売上がゼロになって不安で堪らなかった日々のことを思い出しながら、いや本当にその通りだよなあと改めて思うのだが、僕は自分の商売が立ち行かなくなりそうになっても、妻に借金をしてでも「自由な生き方(自営で生きる道)」をあきらめたくなかった。
傍から見たら舐めたことを言っているように聞こえるかも知れないし、情けない奴だと思われるのかも知れない。しかし僕は一般的な企業や組織のような雑多な人の集まりの中では生きていくことのできない人間だと自覚しているので、もう自営で生きていくしか道がないのである。心の通わない人の集まりに長期間いると、頭が狂って死んでしまうのである。
だから、この「The 感板」というWebサイトも、ふざけているように見えるかも知れないけれども実は大真面目に収益化を狙って作ったのだ。勿論それだけで食っていこうなんて思っていないが、大体これぐらいのコンテンツ量やページ数があれば月にいくらぐらいの広告収入を得られるな、というのはもう経験上分かっているので、そういったものを積み上げて生きていく方法だってあると思うし、リスクを分散させる意味でも間違ったやり方ではないと今でも思っている。

この激動の1年の中で今後の人生について考えさせられることは本当に沢山あったのだが、考えに考えまくった結果、時間も場所もお金も何もかも、とにかく他人や時世に振り回されない状態に持っていこう、というのが現時点の僕の目標になった。
自分が楽しめるものを仕事にして、それでなるべくたくさん稼いで、ちょっと健康に気を使いながら美味しいものを食べて、なるべく多くの余暇時間を設けて、その中でなるべく多くのインプットとアウトプットをする。そしてそういった活動をしながらも次なる緊急事態のことをある程度想定しておく。
そんな生き方が目標であり、それこそが自由な生き方なのではないだろうか。と、改めて思うに至った。

今回の記事はそういった自問自答の結果を書き記した自分のための備忘録みたいなものなので、いつか道に迷いそうになった時に改めて読みに来ようと思っている。

Ape

PROFILE

Ape(エイプ)

戦慄のオルタナティヴロックバンドVery Apeのヴォーカル兼ベース。
mizuirono_inu、ロザンナ、バイドク等のバンドのサポートベースもたまに。
生業はECサイト運営、プリンタブルTシャツ卸売など。
AprilFool主宰。FREEZINE運営メンバー。

Very Apeサイト

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