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2020.02.05

相壁 琢人 インタビュー | 花の美しさだけを掻い摘むのではなく、朽ちていく過程まで愛でる。

取材・構成:清水 里華 撮影:ゆうばひかり

ある日、バラバラになったダリアの姿を見て
気付かされたこと。

編集部(以下、編):フラワーアーティストとしてご活躍の相壁さんですが、これまでの職歴を教えていただけますか?
相壁 琢人(以下、相壁):22歳から親が営んでいた花市場内の仲卸で働き始めました。当時はバンドをしていて花は身近ではあったのですが全く興味はなく、ただ音楽を続ける為だけに働き始めたような感じです。ある日、ダリアが入った箱を落としたんですね。でバラバラになったダリアを見て「花も生命なんだ」と感じて。多分物心ついた時から「花は踏んではいけません」的な教育を受けるじゃないですか。なので絶対的に自分が花を殺してしまったという感覚になって。そのことがあって初めて花の生命に気づけて、その日から花に向きあおうと決めました。それから働きつつ夜間で花の専門学校に通って資格を取ったりして。そんなタイミングでバンドが解散したこともあり仲卸を退職して本格的に都内の花屋で修行した後、自分で制作を始めた形です。
編:独立されて「ahi.」を立ち上げたとのことですが、そのきっかけは?
相壁:独立とは言っても、修行していた場所を離れ本格的に自分で制作を始めるまで少し時間があったんですけど、その期間改めて花のことを考えていて。今在る花の価値観は勿論素晴らしいけど、この先その価値観だけで花の生命は伝わり続けるかなと思ったら、何故かそうは思えなくて。なのでこのままそういう花の価値観を広げてくれる人を待つのなら自分の人生で伝えていこうと思い立ち上げました。「ahi」は「あひ」と読むんですが、古文では「ともに。一緒に。」という意味だったり。また「黒と白の中間」みたいな意味があって。咲いた枯れたではない、花の生涯を共に伝えていくという想いを込めて「ahi.」にしました。「.」を最後に付けたのは、「ahi.」として何かを伝えるときに、勢いだけではなく一度伝えていくべきことを再確認してから行動しようという思いを込めて付けました。

1輪1輪それぞれ表情の違う花だからこそ、
対峙した瞬間に、できるだけ早くいける。

編:これまでに影響を受けたものや人を教えていただけますか?
相壁:ジャンルは問わず音楽には影響を受け続けていると思います。花では中川幸夫さんの花に向き合う姿勢に衝撃を受けました。ただ正直、ahi.のメンバーや身近な友人など。同じ時間や経験を共にした人に一番影響を受けていると思います。
編:ちなみにどのような幼少期を過ごされてきたのですか?
相壁:花の仲卸を営んでいる家庭で育ちました。幼少期はほとんど話さなかったみたいです。中学時代より前をあまり自分では覚えてないのですが、家に10個くらい水槽があって。飼っている生き物の水草とか隠れ家とかを配置するのが好きだったのは覚えてます。なので大きな作品とかで花を配置する時は、当初の感覚に近いものを感じます。
編:相壁さんが作品制作の時にこだわっていることは何です1?
相壁:花をいける前段階では何度も試行錯誤するのですが、花を仕入れていざ向き合うと当たり前に1輪1輪表情が違うんです。なので、花をいける瞬間は迷うことなくできる限り早く目の前にある花をいけるようにしています。
編:なるほど。では、相壁さんがものづくりで大切にしたいことは?
相壁:ものづくりは「創作時」とは少し違って、自分の今ではなく他人の未来へ向けての作業かと思っていて。「ものづくり」は今だけはなく、もしかしたら数年後だったりそれより先に見られ伝わっていくかもしれないので、そういう時にも作品としてのメッセージ性も作品自体の強度も保てていられるようにすることを大切にしています。

日々、大量に消費されていく花の現状に触れ、
その朽ちて行く過程まで愛でるという覚悟。

編:作品を通じてどんなことを伝えたいですか?
相壁:「ahi.」への想いと同じになってしまうかもしれませんが、普段の生活で目にする満開の花や綺麗な状態の花だけが花では無いということです。若い頃は勿論美しいんですけど、そういう美しい部分ばかり掻い摘むのではなく。そこからどう変わってどう朽ちていくのか。本当の意味での花を愛でる感情みたいなもの。そういう部分を作品を通じて、より伝えていけるように制作しています。
編:相壁さんの創作の源泉について教えてください。
相壁:花は毎年新しい品種が生み出されて、また淘汰されて消えていく品種も大量にあります。少し傷んだから、枯れたからという理由で棄てられるのが花の現状です。そんな現状を見ているからこそ、それを嘆いたり悲しんだりしても何も現状は変わらない。でも伝えられることはあると思っていて。なので、創作の源泉は花の現状です。
編:アーティストとしてのやりがいは何ですか?
相壁:1つ前の質問に繋がるのですが、自分で花を伝えていくことで、花が苦手だった方とかが、花に興味持ってくれたりすること。花ってなんなんだろとか考え始めてくれることが何よりのやりがいです。
編:アーティストとしての苦労談があれば教えてください。
相壁:アーティストとして、や何かを伝えるということ、に対しては上手くいかなくても結局自分の力量不足だったり勉強不足だったりするので苦労と思ったことはあまりなくて。なんでしょう。単純な苦労だと、体調を崩したり怪我できないことですかね。

花の作品を制作するようになってから
生活がすごく質素に。

編:現職に就かれてからどのように生活が変わりましたか?
相壁:朝がすごく苦手で、夜型の生活だったのですが今は朝型の生活を送ることが多いです。あとは、自分で花の作品を制作するようになってからすごく質素になりました。当たり前ですが、花中心の生活になってます。
編:仕事の広げ方や断り方など、どのように対処されていますか?
相壁:仕事の広げ方は難しいですよね。結局は作品で認知してもらって仕事をいただいて、いただいた仕事でまた認知してもらって。それでまた新しい作品を制作しての繰り返しかなと。なので、勿論スケジュールや予算で断念することはありますが基本断ることはないです。
編:スキルアップ面で工夫されていることは?
相壁:「ahi.」の相方のカメラマンの田中生と毎月何回も撮影しているのですが、相方が停滞することなくスキルアップしてくので、こちらも想像を上回りたいじゃないですか。なのでその撮影作業の繰り返しが必然的に一番のスキルアップ方法になっているかと思います。
編:健康管理はどのようにされていますか?
相壁:身体を動かす仕事なので自然と健康に繋がっているのかもしれませんが、散歩は好きなので毎日してます。あとは寝る前に深呼吸してリラックスすること、とかですかね。健康管理というかは分かりませんが(笑)

自由とは、理解が追いつかないものを解釈しようとする
思考や状況を保てること。

編:今後の目標や展望はなんですか?
相壁:今までは生活圏内である東京で展示を開催することがほとんどだったのですが。今は別の道府県や国で展示などをしていけるように動いています。またそれぞれの土地の花、生産者も絡めて作品を制作できればと思っています。
編:相壁さんの思う「自由」とは?
相壁:物理的な自由は必要ないかと思っていて。物理的な自由だけで満たされてしまうと感覚が不自由になってしまう気がします。理解が追いつかないものを解釈しようとする思考や状況を保てることが自由なんじゃないかなと。勿論これはある程度物理的な自由が満たされているからこそなんですけど。不自由な状況と自由に思考できる状況のバランスを自分で責任を持って保つことが自由かなと思います。
編:FREEZINEF読者層である「自由に作る人、自由をつくる人」へのメッセージをいただけますか?
相壁:誰かへのメッセージだと当たり障りのないことしか言えなくなってしまうので決意表明みたくなってしまうのですが。僕は人生通して誰かにとっての花に対する価値観が広がるように花をいけ続けます。なので自分を信じて共に同じ時代を楽しく生きていきましょう。

1日のタイムテーブル

  • 2:30起床
  • 3:30花市場へ向か う
  • 4:30仕入れ
  • 7:30仕入れ終了
  • 8:30荷下ろし
  • 9:00花の手入れ
  • 10:30メールチェック
  • 12:00カメラマンと合流・昼食・ミーティング
  • 13:00制作・撮影
  • 17:30撮影終了
  • 18:00散歩・音楽観賞
  • 19:30業務作業
  • 21:30夕食
  • 22:00業務作業
  • 23:00就寝

花をいけるだけではなく水中に沈めたり、燃やしたりするためハサミ以外にも温度計やインク・エタノールなどいろいろな道具を持ち運んでいます。

活動を始めてから4本目のハサミ。切り口によって花の保ちが変わってきます。また刃の欠け具合が変わってしまうので自分以外には使用させないです。

この車が無いと花の仕入れは勿論、機材を運べないので大切に運転してます。撮影などなくてもahi.カメラマンと運転しながら案を出し合ったりするので、ミーティングスペースみたくもなってます。

花に集中したいので気を使わなくていいクロックスを季節問わずに制作時や仕入れ時に履いています。

PROFILE

相壁 琢人
(アイカベ タクト)

フラワーアーティスト

2015年よリフラワーアーティストとして、制作活動およびフラワーディレクションを開始。
フラワーアート・押し花制作・フラワーディレクション・広告/会場装花・ワークショップ・コラムなど。

WEB

twitter

Instagram

2会場での固展「Adam et Eve」

●Adam et Eve -Adam-
[Exhibition] 相壁琢人(ahi.)
[ACT]圭(BAROQUE) / world's end girlfriend / 雨ノ弱
[DAY] 2020月2月7日(金) 赤羽ReNY alpha
[Access] 赤羽ReNY alpha
[OPEN/START] 17:30 / 18:30
[ADV/DOOR]¥4,000/ ¥5000 (D代別途要)
[TICKET]e+
[INFO]赤羽ReNY alpha 03-6903-9020
◎音楽と花を融合させたイベントになります。
・ステージ上でのインスタレーションオブジェ制作
・ステージ装花
・フロアオブジェ展示
・ライブ

●Adam et Eve -Eve-
[Exhibition] ahi.
Flower Work :相壁琢人(ahi.)・Photography :田中生(ahi.)
[DAY]2020年2月14日(金)~2月19日(水)
く入場無料・2/17(月)・2/18(火)表参道ヒルズ休館日に伴いお休み>
[OPEN/START] 11:00~21:00
く2/16(日)~20:00、2/19(水)~18:00>
[Place]表参道ROCKET
東京都渋谷区神宮前4-12-10 表参道ヒルズ同潤館3F [INFO]表参道ROCKET 03-6434-9059
◎インスタレーションオブジェ展示
・善悪の知識の樹
こちらは会期中に花が朽ちていくオブジェです。

インタビューを終えて 〜FREEZINE編集長の編集後記〜

相壁さんの事はworld's end girlfriend「Plein Soleil」のMVで知った。
フラワーディレクションを担当しているのだ。

花のことは詳しくないので「なんかわからないけどやばい」とバカ丸出しな感想で申し訳ないが燃える花が強烈に印象に残った。
興味がある人は是非チェックを。花が燃えてるんす。

そんなヤバいと思っていた相壁さんからオファーをいただきすごく嬉しかったです。

ちなみに今回は真冬の代々木公園で撮影しました。



インタビューに収録されていない当日相壁さんから伺った素敵なエピソードがある。

相壁さんは生まれも育ちも東京のシティボーイなのだが、
東京で花を見るのがキツくなり一度福井県に避難したんだって。

誰とも関わるつもりなかったそうなんだが、その人柄から福井の友人ができた相壁さん。

でその友人の誕生日にアレンジした花を贈ったら、
「お前こんなとこいないで東京に帰って花やりな」

って言われて再度東京に戻ったそうです。

ちなみにその友人は近所のスーパーで重そうに荷物を運んでたのを手伝った65歳のおばあちゃんなんですって!

染みるぜ。。

このエピソードからも人となりが伺えるが、相壁さんの人柄がよく伝わる本人のコラムがあるので最後に紹介したい。
https://shokubutsuseikatsu.jp/article/column/p/9643/

2/7にある相壁さんのイベント『Adam et Eve》-Adam-赤羽ReNY alpha
いくのが楽しみだ。

sashi