COLUMN

2018.12.04

「よく描き、たまに書く」by kubo 第2回/「パトロン・投げ銭」という文化

こんにちは、凹(kubo)です。
フリーランスのイラストレーターです。

つたない文章で恐縮ですが、今回も「絵描きフリーランス」として思うことを綴っていきます。

「パトロン」という言葉をご存知でしょうか。
芸術家が安心して創作に打ち込めるように、金銭面のサポートをする人を指します。
何かを購入するためではなく、その人がこれから生み出すものに期待をかけてお金を払う点は「投資」に似ているでしょうか。
「払わなくてもいいけど応援の気持ちで払う」という点は、大道芸やストリートミュージシャンへの「投げ銭」も似ているかもしれません。

パトロン自体は非常に古くから存在するものですが、実はこの文化、最近ウェブ上で広まってきているのです。

海外ではすでに存在していた「パトロンサービス」

「最近」と言っても、それは日本での話です。
海外では数年前からすでにそういった文化が登場していました。
代表的なのは2013年サンフランシスコ発の「Patreon」です。

Patreon(https://www.patreon.com/)

クリエイターを支えたい人(パトロン)は、支払額を自分で決められます。
またクリエイター側は、支払われた額に応じて何かをパトロンにあげることができ、何をあげるかは自由に決められます。
たとえば3ドルで先行チケット、5ドルでレクチャー、10ドルで直接話せる、などなど…。
(なにもあげない、という選択もできます。完全に投げ銭のスタンス)
直接顔を合わせずにインターネット上で完結できるというのが今風ですね。

日本でも近年になってサービスが続々登場

Patreonは日本語対応はしていません。支払方法についても日本口座などは対応していないでしょう。
支援する側としても、日本において「本来無料で享受できるものに自発的にお金を払う」というスタンスはあまり定着していないように思います。
というわけで、他の国ではすでに大きな文化になりつつあるこの「パトロンシステム」は、日本のクリエイターにはなかなか浸透していませんでした。

でも最近になって、日本でも同じコンセプトのサービスが続々生まれ始めています。
有名どころだとこのあたりでしょうか。

Pixiv Fanbox(https://www.pixiv.net/fanbox/)

↑イラストSNS大手「Pixiv」が運営。
音楽等も投稿できますが、イラスト・漫画色が強い印象。

Fantia(https://fantia.jp/)

↑同人誌販売サイト「とらのあな」が運営。
Pixiv Fanboxよりさらにイラスト・漫画色が強い?

Enty(https://enty.jp/)

↑日本のパトロンサービスの中では古株?
やはりイラスト色が強いほか「ゲーム制作」というジャンルもありました。

note(https://note.mu/)

↑月額有料ブログ、という運営方法をしている方をたまに見かけます。

Frekul(https://frekul.com/)

↑音楽特化はめずらしいかも。

ちなみに、最初に紹介したPatreonもそうですが、これらのサービスは基本的に「月額」です。
何かに対してピンポイントでお金を払うのではなく、プランを決めて長期的に支援していきます。
(もちろん、辞めたくなったらいつでもやめられますが)

「安定」がネックのフリークリエイターには非常に嬉しい点である反面、気の持ち方によっては毎月振り込まれる額がプレッシャーになって「何か生み出さなくちゃ…」というあまりよくない精神状態になってしまうパターンもありそうですね。

また、私が絵を描く人間だから、というのもあるかもしれませんが、それを差し引いても現状は「絵・漫画・イラスト」に特化したサービスが多い印象です。
ミュージシャンや映像作家など、ほかのクリエイティブに特化したサービスも今後どんどん出てくるのかもしれません。

私たちの今までの感覚だと「お金が発生する」というのはとてもオフィシャルなことでした。
でも、この「パトロンシステム」はそれよりカジュアルに行える印象です。
お互いを特定することなく、何かを強制することもなく、「お金」と「作品」でふんわりと繋がる。
昔は、ひとりの芸術家に対して「少数のお金持ち」がパトロンをしていたので、依存度が高かったり強い上下関係が生まれたりしていましたが、今はそれを「たくさんの人が少額」という形に変わっていて、そこもまた気軽さを生み出しています。

これからのクリエイターを支える仕組みになる?

インターネットが台頭することで「無料で享受できるクリエイティブ」が増えました。
それは一度は世界中の文化を花開かせましたが、その陰で「クリエイティブを生み出す側の人たち」は「無料」に圧迫されるようになりました。
生み出す側の人間がだんだん苦しくなってきて、コンテンツの成長が頭打ちになってきて…そんなところへ生まれたのがこの「パトロンサービス」なんだな、と感じます。

需要が安定しない不安や、他の収入源をつくる作業に振り回されながら創作していたこれまでのフリークリエイターたち。
こうしたサービスが充実していくことで、より安心して創作に専念できる人が増え、また文化が潤っていくのかもしれません。

私も、こんど何かに登録してみようかな…と思います。

PROFILE

凹(kubo)

よく描き、たまに書くイラストレーター。
仄暗くて寂しげなタッチの絵が得意ですが、本人はとても能天気です。
絵を描くお仕事があればぜひご連絡ください。

◆Mail
kubo.ekaki★gmail.com(★→@)