COLUMN

2019.09.24

「よく描き、たまに書く」by kubo 第11回/コピーは悪か

こんにちは、凹(kubo)です。
フリーランスのイラストレーターです。

コンスタントにテーマを決めて書くって難しいですね…。
今月のタイトルは「コピーは悪か?」です。

盗作はもちろん悪である

クリエイター界隈でよく、パッと持ち上がってはうやむやのまま風化していく「パクリ問題」。

絵で言えば、最近よく見かけるのは「トレパク」です。
トレス(上からなぞること)によって、他人の絵を写し取って自分の作品を作る行為ですね。
特に図々しいパターンでは、他人の描いた絵をそのまま「自分の作品です!」と言って公開する人もいます…。

「パクリ」と呼ぶとなんだかキャッチーですが、いわば「盗作」です。
日本には「著作権法」という法律があり、立派な(?)犯罪ですね。
被害にあったクリエイターは精神的に、時には経済的にもダメージを受けます。
絶対にやってはいけないことです。

でも、最近の盗作判定は厳しすぎませんか?

パクリ(盗作)が悪い事なのは間違いないのですが…。
実は今回のコラムは、盗作を断罪するのが主題ではなく。

むしろ「真似る」という行為に対する世間の目が、最近厳しくなりすぎているのでは? というのが論点です。
今日も今日とて、少し探せばいくらでもそういった諍いが見つかります。

「黒・赤・金の配色はあの人のパクリだ!」
「この目の描き方、〇〇さんに似てますよね? パクったんですか?」
「人物がりんごをもって椅子に座っている絵は別の作品で見ましたよ!」

…わかりやすくちょっと大げさに書いてますが、ほとんどこれと同じような指摘をよく見かけます。
個人的にはちょっと厳しすぎる気がします…。

また、「パクリになってしまうので、何も見ずに描きました!」という人も、驚くほどよく見かけます。
よりよく描くために、実物や他の作品をよく観察し、特徴を捉えるのは「参考」と言い、「パクリ(盗作)」とは違います。
「上達の基本は模写・観察に限る」と声高に叫ぶ入門書が世間にはあふれているのに、それよりも「パクリ」という俗語の印象が勝ってしまってるんですね。

…正直、「パクリ」という言葉が独り歩きして、「盗作」の本質を見失っているのではないか、と感じます。

パクリの判断は法律でも難しい

著作権法 第二条によれば、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」です。
これらの「全部または一部」を「そのまま」自分のものとして扱い、原作者が得るはずだった権利や利益を横取りしてしまうことが「著作権法違反」となります。

…難しいですね。
芸術作品という感覚的なモノを、公平に裁くためにがんばって理論の物差しにあてはめたのでしかたありません。
しかも、どこからどこまでを「そのまま」とするかは、結局人が感覚的に判断するしかない。
実際問題、著作権侵害の問題は、裁判を通してやっと白黒つけられるケースがほとんどです。
(もしくは、そうなる前に当事者間で示談するケース)

法律まわりは話し出すときりがないのと、私自身もまだまだ勉強不足が否めないので、このへんにしておきましょう。
私がここで言いたいのは、「盗作は判断が難しい問題だ」ということです。

なのに、パクリというキャッチーな俗語のせいで、世間のテンションがちぐはぐになってしまっている気がするのです。
深い部分まで検証せず、気楽に糾弾できてしまう空気が、最近の「パクリ基準厳しすぎ問題」の根っこなのではないでしょうか?

昔の偉人たちもみんな「真似」はしていた

人が洞窟の壁に絵を描いてから約6万4000年以上。
世の中には無数のクリエイティブが生まれました。
そんな中で、もはや「完全なオリジナル」を作ることは不可能に近いです。

昔の偉大な芸術家たちも、いいと思ったものを模倣しあって文化を育ててきました。
そうでなければ、絵で言う「印象派」や「シュルレアリスム」、音楽で言う「古典派」「ロマン派」といったグループが生まれるはずがありません。
「何も真似したくないなんて言っている人間は、何も作れない」とは、シュルレアリスムの代表的な作家であるサルバドール・ダリの言葉です。

アルバイトしていたお店で覚えたレシピを、そのまま使って「私のカレーですよ!」と開店するのは、問題です。
でも、家庭料理から三ツ星レストランのシェフまでいろんなレシピを研究して「私のカレーですよ!」と開店するのは、まったく問題ないですよね。

前者と後者の違いは何か。
「どれだけ多くのモノを見て、考えて、自分なりに消化したか」だと思います。

上で「パクリになってしまうので、何も見ずに描きました!」と言った人を例に出しましたが、その人が仮にひとつの絵(or写真)しか資料にせず、思考停止してほとんど模写して「自分の作品」としたなら、それは確かに盗作になるでしょう。
でも、いろんな絵や写真を調べて、自分の足も使って、見たものを総動員して描いた絵は、「パクリ」には成り得ないはずです。

コピーは悪か

最後にタイトルへ戻ります。
「コピーは悪か?」
結論を言えば、「コピー」は、悪です。少なくとも今の日本では。

ただし、その人が本当にいいモノを生み出したいと奮闘したならば。
その結果として生まれたものが、たかが「コピー」である可能性は低いのではないでしょうか。



…たぶん。

PROFILE

凹(kubo)

よく描き、たまに書くイラストレーター。
仄暗くて寂しげなタッチの絵が得意ですが、本人はとても能天気です。
絵を描くお仕事があればぜひご連絡ください。

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kubo.ekaki★gmail.com(★→@)

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