COLUMN
2020.06.09
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2020.06.09
こんにちは、凹(kubo)です。
フリーランスのイラストレーターです。
前回の記事に自分自身を登場させたら、身内から「このキャラクターは何?」とツッコミが入りました。
「カラスだよ」と答えると不思議そうな顔で、「なぜカラスなの? kuboはもっと、猫とか、小動物みたいなイメージだよ」と返されました。(そうなの?)
人から自分についてのイメージを聞く経験は、あまりないので新鮮でした。
でも、私にとって、私はずいぶん前から「カラス」なのです。
カラス全般ではなく、ある特定の、一羽のカラスです。
イソップ寓話の「虚飾で彩られたカラス」というお話を知っていますか?
「おしゃれなカラス」「王様になりたかったカラス」といった別題の方がなじみがあるかも。
あるとき神様は、世界中の鳥を集めて「もっとも美しい鳥を王様にする」というおふれを出します。
カラスは王様になりたかったけれど、自分の真っ黒な容姿に自信がありません。
そこで、オウムやクジャクやハチドリたちが自慢の羽を手入れした跡をまわり、抜け落ちた羽をこっそり集めました。
それをありったけ自分の体に挿して着飾り、王様を選ぶ日に臨んだのです。
私は、物心ついたときから、いつでも「自分ではない誰か」になりたかったし、「こんな自分は私じゃない」と思っていました。
小学校では、クラスで一番かわいいMちゃんになろうとして、歩き方やノートの字や、口調や表情にいたるまでマネしました。
中学校では、いち早く彼氏ができたおませなKちゃんにあこがれて、100円ショップのチープなコスメで化粧をマネしました。(すごく下手だったし、結局モテませんでした)
高校時代は、穏やかで優しく、皆と盛り上がるタイプではなくとも不思議と人を惹きつけるCちゃんのふるまいをマネしました。
大学時代は、独特の尖ったセンスと抜群の行動力を持ちながらも、おっとりした北陸訛りで親しみやすいSちゃんにつきまとって行動しました。
会社員時代は、のんびりとマイペースで飾らないのに、身につけるものや趣味がさりげなくハイセンスで洗練されていた同期のAちゃんといつも一緒にいました。
本当に、いつでも、間断なく、誰かを真似ていました。
モノづくりにおいては、4歳で絵を描き始めてから、高校~大学にかけて文章にのめり込み、社会人になってからまた絵に帰りましたが、やはりいつも誰かのマネをしていたように思います。
流行のマンガや小説から絵柄や文体を盗みとっては、見ないで描けるくらい吸収できたころに、次の目標を見つける。そのくりかえしです。
今風に言えば「自己肯定感が低かった」のでしょう。
自分や自分の作品にはぜんぜん魅力がないから、私はいつでも他の人からこぼれた羽を、せっせと集めては自分に挿してきました。
いつでもコンプレックスまみれで、腹ペコで、不満でした。
(そんなことばかりしていたからか、どうやら「観察眼」だけは人一倍育ったようで、最後の方はマネも堂に入っていました。同期のAちゃんとは、いろんな人からよく混同されていました)
寓話のカラスは、一度はその美しい姿を神様に認められ、王様に指名されます。
しかし、その瞬間、まわりの鳥たちから声があがるのです。「それは私の羽じゃないか」と。
次の瞬間、カラスは鳥たちからつぎつぎと羽を奪い返され、もとの真っ黒な姿に戻ってしまいます。
その黒い羽も、他の鳥の羽を盗むことにばかりかまけて全然手入れをしていなかったので、みすぼらしいカラスはすっかり見向きもされなくなってしまうのでした。
私にもいつか、そんな日がくるんでしょうか。
真似て盗みとった羽がボロボロ抜けて、まったく磨いてこなかったちっぽけな自分自身をつきつけられる。そんな日が来てしまうのでしょうか。
それとも、もしかしたら、盗んだ大量の羽のうち、ほんの数本だけでも体に根付いて、本当の私の羽になってくれていたりしないでしょうか。
…ちなみに今は、奇跡的に(?)誰のマネもしていません。
フリーランスになって、ひとりの時間が増えたことが一番の要因でしょう。
コンプレックスからくる飢餓感は薄れ、今までの人生で一番おだやかに毎日を過ごしています。
…が、「目標とする相手」のない初めての時間に、漠然とした焦りを感じてもいます。
もしかしたら今こそが、自分の黒い羽を見つめ、認めて、手入れをしてあげる最後のチャンスなのかも。
…いや、どうかな。わかりません。
(ちなみに、私個人はカラスという鳥のことを可愛いと思っています)
よく描き、たまに書くイラストレーター。
仄暗くて寂しげなタッチの絵が得意ですが、本人はとても能天気です。
絵を描くお仕事があればぜひご連絡ください。
◆Mail
kubo.ekaki★gmail.com(★→@)