COLUMN

2020.09.15

「東京で魔女になる方法」 by 猫島虎雄 第2回/ポメラニアンか緊縛教室

30代に入ってから、セックスや恋愛の機会が激減した。これは複合的な理由がある。一人で生きるのは味気ないと思いつつ、昨日の夕飯スイカにしたけど誰にも怒られなくていいな?なんて思ったりもしている。

ただ、日本文化圏で独身で、ペットもいない、おまけにソーシャルディスタンス。
そうなると大きな問題がひとつあって、それは誰もわたしに触れないことである。
他人と身体的に触れ合う機会がもう皆無。

中国にいた頃、私には多くの欧米人の友人がおり、出会い頭や別れ際にはハグしてくれたし、悲しい時や寂しい時も男女問わず抱きしめてくれたり、肩を抱いたりしてくれた。
仲の良い女友達とは、よく同じベッドで寝たりもした。(強烈な秘密を暴露されたりしながら。)

そういうのが無いとやっぱり、人の心はギスギスしないかな、私はするんだけど。
自分の体の境界線が強固になって、わがままになった。他人に対する想像力も少し減っている気がする。とにかく自分中心になりつつある。

(そういう話をチラッと人にすると、欲求不満なんだね、婚活やれば!出会い系アプリやれば!と言う人がいるんだけど、なんでだよ、ぜんぜん見当違いのアドバイスなの。)

正直言うと、ポメラニアンが欲しい。
ポメラニアンと嗅いだり舐めたり抱いたりし合えれば、私のこの虚しさは十分すぎるほど埋まる。

だけど今犬を飼うのはハードルが高い。わたしはすぐ、クレイジー犬おばさんになっちゃうし。
一方ヒトは複雑でめんどくさい。触れ合える相手をわざわざネットで探すのは興味がない。
別にセックスがしたいわけじゃない。

そこでいろいろ考えた挙句、緊縛教室に行ってみることにした。
緊縛教室とは、あのSMの、緊縛の型を習うお教室である。文字通り。

緊縛教室で、誰かと縛ったり縛られたりすれば、他人に直接触れられることなく、だけど縄による間接的な身体の触れ合いができる。ある意味ソーシャルディスタンス・ハグみたいなものでは?
教室はヨガ教室と同じくらい明るく健全らしい。縄の型を覚えるのも楽しそうだし、教室という完全に管理された場でなら、よく知らない相手のことも透明化できる。そしてそのくらいが、今の自分にとってベストなんじゃないかと思ったのである。

お教室には計2回参加した。一回は自分で授業料を払い、縛る方としてやり方を習う。
もう一回は縛られモデル(練習台)として参加して、時給をもらう。(もちろん着衣)

どちらも楽しかった。
簡単に言えば、編み物教室のようなものである。編み方と型を覚える。それに人体を組み込むので、相手には特別優しく気を遣う。時々目を見ながら、コミュニケーションを取りながらが望ましい。
痛くないか、苦しい場所はないか、疲れていないか。
でもセクハラっぽさは全くない。

繰り返し強調するが、セックスとは直接関係がない。編み方を練習するのだから。
なんかマッサージとか整体教室とか、ああいう雰囲気に近いのではないかなあ

初回は近くにいる一人で来たもの同士ペアを組んで練習する。
あんなに相手の身体を気遣いながら、人に優しくしたのはなんだか久しぶりであって、心地の良いコミュニケーションが成立した。
ああいう作業は性格が出るもので、わたしが大雑把でせっかちで物覚えが悪い事は、一瞬で見透かされてしまったけれど。

また、縛られ役として参加した時の癒されっぷりは半端なかった。

どのくらい気持ちよかったかというと、寝た。私は後手で編み上げられながら寝ていた。

脈々と受け続けられる伝統や、繰り返される型というものに面白さを見出す方ではない。いっつも危うくて、見たことがないものが見たくてイライラしてるくらいだけど、緊縛は技を習って受け継いでいく、伝統芸能みたいなもんである。そこに新しさや自由はない。

だけど実際縛りの型をされてみると解るのは、受け継がれる技術というものはやはり理由がある。
見た目も美しく、安全も考慮してあり、心地よいようにできている。
型の始まりは不安定で気持ち悪かった体感が、完成に近づくにつれどんどん気持ちよくなっていく。
あ、そこそこ、というくらい、きゅっとハマるスポットに縄がかけられていく。体が動かないストレスが時々ふわっと湧いてきて、それを忘れるためにどんどん瞑想状態に近づいていく、縛る人がこちらの様子を気遣う声も心地よく、体の圧迫感には安心感があり、最終的には眠くてしょうがない。

これは素人が見よう見まねで自由にやってもこうならないからやめたほうがよい。危ない。基礎を固めるのは大事なのだね。また、もしセックスの際のプレイに使用したい場合は、講師が安全性や見た目のエロさについてのポイントを詳しく教えてくれる。

講師が言っていたが、鬱のセラピーで身体を圧迫するという方法があるようだ。
身体を圧迫するのが鬱に効く、つまり逆説的に言うと、ハグをしない人は鬱になるってことじゃんね。

ぐるぐるに巻かれて繭になるセラピーのような気もした。繭になって眠る安心と、羽化する開放感。
なんかけっこう癒されちゃったし、また行くかもしれないけど、
ただひとつ、あれだけ身体感覚を使用したのに疲労感がないのがなんか物足りなかった。
おまけに筋力とかつくならいいよね。(中級になると釣りに挑戦できるから、人を釣れるようになれば重労働か?)

猫島虎雄

PROFILE

猫島虎雄

アジアに恋しているジプシー、愛犬家。女