COLUMN

2022.09.27

「才能と戦わずに好きなことで生きていくためのススメ」 by ミツビシテツロウ 第2回/正面対決をしない(後編)

「好きなことで生きていく」、巷ではよく聞く言葉だけれど、
本当に好きなこと“だけ”で、フリーランスとして生きてくためには具体的にどうしていくべきなのか?
どんな心構えが、どんな機会が、どんなスキルが必要なのか?
好きなことで食っていきたいすべての人たちに向けた、全5回の連載です。

改めましてこんにちは、ミツビシテツロウです。
連載第2回ということで、前回に引き続き「好きなことだけで生きていくための手順」後半の説明をしていきたいと思います。

前編記事を読んでいない方はこちらをチェック!

簡単に前回紹介した手順の前半をおさらいすると、
1.好きを増やした上で、好きと嫌いを明確にする
2.好きなことをジャンルとして決め、それで食っていくための方法(仕事)を調べる
3.調べた方法(仕事)を、競合の多そう・少なそうで分類する
4.スキルのレベルを6/10くらいにしておく
でした。

好きなことだけで生きていくための手順(後半)

前半が仕事を受けるまでの下準備的な段階だったのに対して、後半では実際に仕事を受けながらステップアップしていきます。

5.仕事を必要としている人を探し、アプローチし、タダないし低価格で仕事を受ける

ここは具体例で説明していきましょう。

音楽で食っていくにあたって、BGM作曲なら戦えるのではないか?と思った僕が最初に仕事をとりにいったのは、小さい劇団の音響の仕事でした。高校時代に演劇部に入っていたので演劇についても多少の知識があって、入りやすいと考えたからです。

まずは大学の演劇サークルに所属し音響の知識も深めた上で(前の記事で言うところのレベル6ですね)、小さな劇場に演劇を観に行き、観劇後に劇団員に声をかけます。こう言うといやらしいですが、人手が足りなそうな小さな劇団を狙いました。音響の仕事をしたいと熱弁すると、じゃぁ次の練習から来てみる?という話にまとまりました。こうして僕はBGM作曲と音響の仕事を初めてすることになりました。もちろんですが無給です。

それから、BGMを必要としていそうな人、という観点で、同人ゲームを作っている人にも声をかけました。普段はフリーの音源を使っているけれど本当はオリジナルな音源にしたい、けれど自分では作曲できない、そんな人です。18曲で1万円、くらいの低価格で仕事を受けました。

フリーランスで働けるようになるためには、何より実績が大事です。実力ももちろん必要なのですが、このようにタダないし低価格で仕事を重ねることによって実力もついていきますし、実績も同時に得られます。なので初めのうちは、実績になることがギャラだと思ってどんどん仕事を受けましょう。

6.枝葉のスキルを増やしていく

こんな風な流れで、同じくレベル6くらいの枝葉のスキルを増やしていきます。僕にとっては、マニピュレーション(電子楽器や打ち込みサウンドをバンド演奏の中に取り入れて、コンピューターを制御すること)や、レコーディング(録音)、ミックス(録音された音源の音量バランスや音色を調整し、1つの楽曲にすること)、マスタリング(簡単に言えば作った曲を聞きやすいように最終調整すること)などです。

たとえばマニピュレーションでも、先と同様に、まずは自分のライブでマニピュレーションをしてレベル上げと一番手前の実績作りをした上で、マニピュレーターが必要そうな人に声をかけ、タダで仕事を受けました。

枝葉の仕事が増えると、「◯◯と△△と××をやってほしい」などの包括的な仕事を受けられるようになり、仕事の幅がかなり広がります。

今よりちょっと若い頃のマニピュレーター現場

7.仕事をグレードアップしていき、友達を増やす

最後のステップとして、徐々に仕事のグレードを上げ、1案件で得られるギャラも少しずつ上げながら、その中で知り合っていく人を増やしていきます。さらっと書いているようですが、「界隈の友達を増やす」ということは本当に重要で大事なことです。

「界隈の友達を増やす」がなぜ重要か?

まず言うまでもなく、その界隈には自分が持っているスキルを必要としている人が多くいるからです。もちろん知り合いのいない企業やコミュニティに営業に行くことも必要にはなってきますが、「今度こういうことやってくれる人が必要なんだけど」「自分の知り合いにこういう仕事できる人を探してる人がいるんだけど」と既存の知り合いから頼まれる方が手っ取り早く仕事にできます。

また、特に仕事を始めたての(若い)うちは、界隈の先輩にいろいろなことを教えてもらえる機会が作れるようになります。スキルが発展途上のうちは、すでにその仕事で食えている先輩に聞きたいことなどもたくさんあると思います。そういう話は絶対に聞いた方がいいです。なので、友達は多いに越したことはありません。

大事なのは「現場に行くこと」

「界隈の友達を増やす」上での大事なポイントは、現場に行くということです。

案外、人は現場に行きません。映像をやっている人が、機材の発表会に行かなかったり、知り合いの個展があっても見に行かなかったり。音楽であれば、ライブや楽器屋さんが代表的な現場ですね。スキルレベルを6まで上げた後は、積極的に現場に行って話を聞きましょう。

たとえば先で触れたように何か先輩(より詳しい人)に質問したいと思ったとき、もちろんネット上で質問することも可能ですが、ネット上では100聞いても1返ってくるかどうかわからないですし、信用できるかどうかも微妙です。下働きのチャンスがあるという点でも、とにかく現場には身体ごと持っていくようにしましょう。

仕事のグレードアップはどのようにしていく?

ステップ7の冒頭で「徐々に仕事のグレードを上げ、1案件で得られるギャラも少しずつ上げる」と書きましたが、具体的にはどんな風に上げていくかイメージがつかない方のために、具体的に説明します。

まず、ギャラ0円で受けた案件Aがあったとします。繰り返しますが、この案件のギャラは実績です。なお僕の場合は、1年くらいはタダでいいですよと言って仕事を受けていました。

次に、案件Aと同じような案件Bがきたとして、このときに2000円にしてみます。これは正直「空気を読んで」提案します。「タダにしてよ〜」と言われて、実際自分の実績も足りないときは0円に下げることもありますし、相手の予算感にもよります。

もしも案件Aの人から2回目の案件を受けたときは、直近自分が受けているギャラの額を言います。「前回はタダだったじゃん〜」と言われるかもしれませんが、これも自分の実績と他の案件のギャラを加味しながら、場合によっては「すみません、でもこの額で」と押し切ることも必要です。このようにして、徐々に同じようなランク帯の案件で同じように金額を上げていきます。

また、これと並行して、同業の先輩に「いくらくらいもらってます?」と聞いて、だいたいの相場観を掴みましょう。相場観を知るためにも、友達を増やしておくことは大事なんですね。

一方で大事な話として、ちゃんとした企業からの案件・予算感がある案件は、相場を割らないようにして仕事を受けましょう。つまり、たとえば普段なら2000円で仕事を受けている状態のときに10万円の仕事がきたとして、自分に10万円なんて不相応だと思っても、その額で受けようということです。

なぜなら、その金額分の仕事をしなければならないという点で勉強のチャンスだからです。最初は、「なんでそれができないの?」と怒られることもたくさんあります。使えないと思われて、その仕事に二度と声をかけてもらえなくなるかもしれません。それでも受けましょう。自分ができるべきこと・覚えなければならないことが明確になり、確実にその後の自分の成長につながります。

僕の肌感で言えば、早い人なら仕事を始めたその年に、遅くとも3〜4年の間には、自分のランクよりも上のランクの仕事が舞い込んできます。逆にランクが上の仕事が舞い込んでこないようであれば、それは実績が足りないか、人に会っていないかです。ランクが上の仕事は苦しいですが、成長の機会になるだけでなく、大きな実績につながり、全体のギャラを底上げできるようにもなります。

大きい感じの現場の写真。ステージ上左端が僕です

以上が、実際に仕事を受け始める後半のステップになります。

前後編2回分使って、「好きなことだけで生きていくための手順」を解説してきました。ここまで読んでくださったみなさんは、納得する部分も多かれ少なかれ(多いことを祈る)ありつつも、一方で、「とはいえさ…」「そんな簡単に言ってくれるけどさ…」と思った部分もあったかもしれません。

次回の第3回は、「とはいえ難しくない?」なあれこれについて書いていこうと思います。ぜひ次回もお付き合いくださいませ。

PROFILE

ミツビシテツロウ

aka Souichiro Igari
福島県双葉郡大熊町出身、東京都板橋区在住。
音楽制作チーム wave technique主宰
大学在学中に音楽制作を始め、広告音楽フィールドでの活動を開始する。
電子音楽を主軸にTVCM、WEB広告のBGM制作、サウンドロゴ制作を行う。
マニピュレーターとしてカタカナ mizuirono_inu 等のバンドで活動を行い、Persians,GEEKS,悲撃のヒロイン症候群等のアーティストサポートも行う。
2014年東京芸術劇場にて自作タッチパネルを用いた8chサラウンドインスタレーション作品Pythagorasを展示。尚美学園大学より音響賞を受賞。

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