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2019.06.25

成田眞澄 インタビュー | 変わる時代に合わせて、変わらない書の魅力を伝えたい。

取材・構成:清水 里華 撮影:ゆうばひかり

高校中退後、アイデンティティを表現できるのは
書道しかないと決意し、師範資格を取得。

編集部(以下、編):型破りな女流書道家としてさまざまなシーンで大活躍の成田さんですが、書道家になるまでのいきさつを伺えますか?

成田眞澄(以下、成田):書道をはじめたのは5〜6歳の頃です。母に連れられて近所の書道教室へ見学に行った時、墨の匂いが気に入って「習いたい!」と母にせがんだそうです。それからなので、書道歴は30年くらいでしょうか。中学の頃はいわゆるギャルとして渋谷のセンター街で夜遊びもしていたんですが、お稽古を休むことはあっても止めることはなかったです。その後、高校生活に違和感を感じて、思いきって高校を中退。自分を見つめ直した時、自分のアイデンティティを表現できるのは書道しかないと思い、修行期間を経て師範資格の取得を目指すことにしたんです。師範資格取得の翌年に教諭資格も取得し、19歳で書道家として独り立ちしました。

編:師範として活動をはじめた当初からデザイン書道も手がけられていたのですか?

成田:はい。通常の書道って、一般の方はなかなか読みづらいですよね。もっと読めるもの、読みやすいものを世の中に広めたいという思いから、デザイン書道に特化したWebサイト「筆字屋」をはじめたんです。

感性の赴くままに書きながら、
ひらめきに身を委ねる過程が好き。

編:ゲームからHIPHOPのアルバム、梅酒のラベルまで、実に幅広い企業とのコラボ作品を手がけられていますが、もともと企業からの発注もWebサイト経由だったのですか?

成田:はじめた当初は、個人の方からのプレゼント向けの作品依頼が多かったんですが、次第にWebサイトを通じて企業からのオファーもいただけるようになったんです。いまでは個人・企業で半々くらいでしょうか。思い返せばあの頃はちょうど飲食店がこぞって看板に筆文字を使い出すはしりで、そんな時代背景も重なったんだと思います。その後、書道家を名乗る方も増えましたね。

編:「書道家」とは誰でも名乗れるものなのですか?

成田:師範資格は国家資格ではないので、あくまで「芸術家」というスタンスであれば誰でも名乗れます。ただ、土台の有無はどうしても筆使いに出ますし、本来の書がわからなくなってしまう懸念はありますね。

編:成田さんが思う書とは何ですか?

成田:終わりのない奥深い魅力を秘めたものだと思います。また、私の場合は仕事だけでなく趣味も書道なので、嫌なことがあった時やくじけそうになった時にはプライベートの作品を書きますね。感性の赴くままに書いて、書きながら得られるひらめきに身を委ねる過程が好きなんです。なので、書き上げた作品そのものには思い入れはさほどなくて、平気で生徒さんにあげちゃったりもします(笑)

作品制作に没頭しすぎて、
大作を仕上げた後に入院することも。

編:お仕事で依頼された作品を書く際はどんなスタイルで対峙されているのですか?

成田:いつも、書きはじめるまでのクリアな状態にもっていくのが一苦労ですね。長い時では一ヶ月くらいかかることもあります。制作の時は、誰にも邪魔されず集中したいので、基本的に深夜に書くことが多いんです。午前中はしっかり睡眠をとり、日中もできるだけ自然体でリラックスできるように心がけています。

編:お仕事が殺到してしまった場合は、どうコントロールされていますか?

成田:お受けする時に「待っていただけるなら」というお断りをいれさせていただいています。実は、一度書きはじめたら食事も忘れて没頭してしまうタイプで、活動当初は本当に一日中書いている時もありました。気づかずに頑張りすぎてしまうようで、特に大きい仕事をしたあとは大きな病気をして入院することもしょっちゅうだったんです。いまでは書道教室で生徒さんが来る日も多いので、抜くときは抜く、というペースが掴めるようになり、没頭しても5〜6時間までという感じでしょうか。愛犬の世話も必要ですしね(笑)

しがらみに縛られず、自分に嘘をつかず、
自然体で活動していくこと。

編:書道家としてのこだわりや、これだけは譲れないというポイントは?

成田:基本を大切にすることと、時間を大切にすること、そして自然体で生きることです。書道家としてはレアかもしれませんが、書道家としてこうでなくては、というしがらみには縛られたくないですし、団体に属しているとなかなか若手の作家が活動するのも難しい。団体を辞めて独立したのはそんな経緯もあります。それと、自分に嘘をつかないことでしょうか。自身で納得のいかない依頼内容の場合には、他の方にあたっていただくよう正直にお話することにしているんです。

編:苦労されていることは何ですか?

成田:そうですね、いまは仕事が多忙すぎて、練習の時間が取れないことが悩みです。常にレベルアップして幅を広げていく必要がありますので。あと、自分の仕事場と書道教室をどちらもまかなえる場所探しが大変でした。マンションだと、生徒さんの出入りが管理規約で制限されている物件が多いですし、個展の準備のためにサイズの大きい作品を仕上げる広さも必要です。必然的に戸建ての物件に辿り着きました。階が分かれているので、愛犬に作品制作を邪魔されず一石二鳥ですね(笑)

きちんと定期的にリフレッシュしながら、
自由なひらめきを大切に。

編:リフレッシュや健康管理はどのようにされていますか?

成田:年に一度、ハワイに元気をもらいに行っています。日々の癒しは愛犬と遊ぶ時間ですね。年齢を考えるとさすがに運動もしなければと思うのですが、ジム通いは自分には合わないので、フラダンスやタヒチアンダンスを習っています。フラダンスは手でいろいろなことを表現するので、そのハンドモーションは書道にもつながるかなと。あとは書きすぎて腰がやられているので、鍼治療にも通っています。

編:成田さんが考える「自由」とは何でしょうか?

成田:思いのままに生きていくとか、ひらめき、でしょうか。自身に置き換えるなら、やはり作品を制作する際には、もちろん依頼内容はきっちりお応えしつつも、自由なひらめきを大切にしたいですね。

編:無理なお願いで恐縮ですが、「自由」と実際に書いていただけますか?

成田:そうですね、自由な感じの中にもきりっとした感じを出したいので、こんな形ではいかがでしょうか。(編註:その場で「自由」と書き上げていただきました!)こうしてさらっと書いた時にみなさんに喜んでいただけるのもうれしいですね。でもそこそこ形になってきたなと思えるようになったのは、この3年くらいでしょうか。

もっと多くの方に書の魅力に触れてほしいから、
この先も突っ走るのみ。

編:これから書道家を目指す方へのアドバイスはありますか?

成田:生徒さんの中でもプロになりたいという方が多いのですが、絶対にお勧めしません(笑)書道家で食べていくことって本当に、大変なんてものではないので。それに、書道を仕事にしたせいで書道を嫌いになって欲しくはないんです。私がいま続けられているのは、たくさんの生徒さんを抱えている以上、退くわけにはいかないからです。えーいしょうがない、このまま行けるところまで突っ走ってやれ!という感じです(笑)

編:今後のビジョンや目標を教えてください。

成田:海外でパフォーマンス書道をしたり、個展を開いたりしたいですね。この時代、日本でも子供が書道に触れる機会がどんどん減っていて、書き初めの宿題を出されはしても、書道の授業はなくなりつつあるんです。教室の生徒さんもほとんどが大人ですし。でも時代は変わっていくものの、時代に合わせて書の魅力を発信していくことはできる。ですので、もっと多くの方に私の活動を通じて書の持つ奥深い世界を知っていただければ、という思いで活動を続けていこうと考えています。

1日のタイムテーブル

  • 11:00メールチェックなど
  • 13:00洗濯や掃除など
  • 14:00お昼
  • 15:00手本書きやご依頼の仕事、事務作業など
  • 17:00昼寝
  • 19:00書道教室
  • 22:30夜ご飯、休憩、犬の散歩
  • 01:00作品書き
  • 3:00就寝

3匹のやんちゃなトイプードルは書道教室にも時々登場するアイドル

工藤静香さんの大好きな歌詞の書をかつては個展に欠かさず出品していたそう

お気に入りの硯と篆刻印。その他の道具には特にこだわらない

パフォーマンス書道用の馬毛の筆。1〜2回でダメになってしまうそう

PROFILE

成田 眞澄
(ナリタ マスミ)

書道家

東京都出身。古風なイメージのある書道とはかけ離れた明るくモダンな容姿とのギャップに、メディアでも話題を呼んでいる若手女流書道家。小学校1年生より、中央書道美術院にて書道を始める。「文字を書く魅力」に惹かれて書を学び続け、実力を伸ばし、
1996 年毎日学生書道・特選、2002 年第34回現代臨書展・準特選など、数々の賞を受賞する。この頃から、音楽に合わせて豪快に文字を書く「書道パフォーマンス」を各地で開催。また企業の商品タイトル揮毫など、書道家としても活躍するようになる。書道こそ自身のアイデンティティを表現する唯一の手段と捉え、師範を取ることを決意。子供時代から長年書道の修行を積み重ねてきたが、さらに 33年の徹底した修行を経て、2005 年、弱冠19歳で文部科学省公認、中央書道美術院にて師範資格を取得した。同時に、デザイン書道に特化した、インターネットショップ、「筆字屋」を開店。女流書道家、成田眞舟のとして活動を開始。プレイステーション2「大神」やアサヒ「八年貯蔵梅酒」商品名など、多くの企業様や老舗デパートからの販促物揮毫やパフォーマンス書道を披露するなど、講演のオファーを多く受け、各地で開催する。2006 年、中央書道美術院を脱会して独立。本名成田眞澄として活動を始める。「心を伝える書道」をテーマに、初心者から経験者までを対象にした書道の通信教育学習を展開し、遠方の方や多忙で通学が困難な社会人の方でも学べる学習環境を提供することに尽力。2007 年 東京銀座にて成田眞澄初個展「蝶」を開催し好評を博す。その頃、多くの方々から書道教室開室のご要望をいただき、「書道の楽しさをさらに広めたい」という思いから、2008 年、書道教室「眞和会」を開校。多くの門下生を輩出し、現在は 150 人が学んでいる。現在はデザイン書道家として、カルビーポテトチップスの商品ロゴや NHK ドラマ『負けて勝つ~戦後を創った男・吉田茂』「この先の道」題字、京楽パチンコ「新鬼武者」筆文字、NY タイムズスクエア東芝ビジョン Japanese countdown の筆文字を3年連続担当するなど、企業様へハイクオリティな作品を提供し続ける傍ら、単なる商業的書道ではなく、女性ならでわの感性を表現するアート書道、店舗名や商品に輝きを与える筆文字作品(ロゴ)、警視庁、郵便局ご依頼の書道パフォーマンスを行っている。フジテレビ「百識王」に出演、ジャニーズ Jr.高田翔さん、山下翔央さんにデザイン書道指導をしたほかにも、加藤清史郎さんや吉高由里子さん、高須克弥さん、西原理恵子さんといった多くの著名人や芸能人に依頼され、書道指導を行っている。アリアナ グランデさんの前でパフォーマンス書道を披露するなどテレビや雑誌、メディアでも多く取り上げられており、ますます活躍の場を広げている。

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成田さんが題字・筆文字を手掛けた作品