COLUMN

2019.05.07

「よく描き、たまに書く」by kubo 第7回/「ボトムアップ」と「トップダウン」

こんにちは、凹(kubo)です。
フリーランスのイラストレーターです。

皆さんは「美術解剖学」という学問をご存知でしょうか。
イラストレーターやスカルプターと言った分野で活動する方しか馴染みがないかもしれませんね。
これは、制作において生物(主に人間)をより魅力的に表現するために、表層から得られる情報だけでなく骨格や筋肉(とりわけシルエットに直接影響するアウターマッスル)の構造から勉強しよう、という学問です。
私も近年になって取り組み始め、なんども挫折しそうになりながら少しずつ知識を深めています。(すごくむずかしいんです!)

さて。ここまでお話しておいて何ですが、今回お話する内容は「美術解剖学」についてではありません。
なにかを勉強したり練習したりする時においての「考え方のタイプ」についてです。

「全体を眺めてから細部を詰める」か(トップダウン)

例えば絵、それもスタンダードなところで「人の絵」を描こうとする時、入門書を見ると大体はじめにこう書かれています。
「まずは〇や□などカンタンな形を組み合わせて人の形を作ってみましょう」

そしてその後にこう続きます。
「目は頭部のちょうど上下中心くらいにあります。上腕と肘~手首は同じくらいの長さです。大体の比率を覚えてバランスよく描けるように練習しましょう」

「それぞれのパーツを魅力的に描けるよう、写真や上手い人の絵を見て模写・研究しましょう」

そしていま私が取り組んでいるのがここ。
「模写だけでは成長はいずれ頭打ちになります。骨や筋肉などの内部構造を勉強し、説得力のある絵を目指しましょう」

この練習ステップの特長は、「はじめに全体像をとらえて、徐々に細部を埋めていく」という点にあります。
これは通称「トップダウン方式」と呼ばれているそうです。

「細部を積み上げて全体を把握する」か(ボトムアップ)

一方で、それと対となる「ボトムアップ」という勉強法も存在します。
全体をコマ切れにして部分的に詳しく勉強し、それを積み上げていくことで最終的に全体像をカバーするというものです。
例えば「人の絵」の練習をボトムアップ形式で行うならば、こうなります。

「まず顔(胸でも腕でもどこでもいいのですが)の骨格・筋肉構造を詳しく勉強しましょう」
「次に、腕の骨格・筋肉構造を詳しく勉強しましょう」
「胸の骨格・筋肉構造を詳しく勉強しましょう」

「今まで勉強したことを組み合わせて、魅力的な人物を描きましょう」

あまりなじみのない勉強法に感じるでしょうか。
でも実は、学校の勉強などはボトムアップ方式の代表格です。
例えば日本史なら、縄文時代のこと…弥生時代のこと…と、だんだん現代に近づきながらひとつひとつの時代をクローズアップして勉強しますよね。
これがトップダウン方式なら、「人類の歴史が始まってから現在まで、このような時代に分かれています。」から始まり、文化や戦争などのテーマごとに時代ごとの空白を埋めていく感じになるでしょう。

自分に向いた方法を選べばいいし、どちらかだけを徹底する必要もない

トップダウン方式とボトムアップ方式。
どちらが良くてどちらが悪い、というのはないと思います。
習得する分野や、勉強する環境によって相性の良い方法は変わるでしょうし、何より習得する自分自身に合った方法を選ぶのが一番いいでしょう。

また、ひとつの分野を習得するのに、一から十までどちらかの方法を徹底する必要もないと、私は思います。
例えば私は、最初のうちはトップダウン方式で人物画を練習していましたが、途中一度行き詰ってから「各パーツを徹底的に練習して最後につなげてみよう」と思い立ち実践してスランプを抜け出した経験があります。これは完全にボトムアップのやり方です。
二つのやり方を柔軟に組み合わせたからこそ理解が深まったんだな~、と、自分では捉えています。

いろんな道を知っていれば、可能性が広がる(かもしれない)

先月に引き続き、まだスランプの中でもがいている私ですが、最近はこんなことを思い出しながら試行錯誤しています。
早くまた楽しく絵が描きたいなあ…。

PROFILE

凹(kubo)

よく描き、たまに書くイラストレーター。
仄暗くて寂しげなタッチの絵が得意ですが、本人はとても能天気です。
絵を描くお仕事があればぜひご連絡ください。

◆Mail
kubo.ekaki★gmail.com(★→@)