COLUMN

2020.12.01

「東京で魔女になる方法」 by 猫島虎雄 第3回/マゾに会いに行く話

仕事がとにかく忙しい。
夜も遅くまで関係者と飲む、タクシーで帰る日々が続く。
体力もすごく消耗するから、休みの日はぐーぐー寝ている。
ずっと不眠症だった自分がもう、パンダみたいにさ。

人と会う時間だってすっごく貴重になっちゃった。
それでも、久々にちょっと早く帰れた時なんかに、会いに行きたいと思う人がいるのだ。

前回のコラムで緊縛の話を書いたが、あれからOne thing led to anotherで
練習モデルのご指名を頂くようになり、練習中の人のトレーニングに(たまーに)お付き合いしている。(この方は緊縛師を目指す勉強熱心で真面目な紳士であり、安全で優しいのでご安心していただきたい)

その関係で出入りするようになったSMバーのママが、私の心を掴んで離さない。

彼女はエマさんという、40代のとてもとても地味な女性である。
いわゆる生粋のマゾで、マゾであることで生計を立てている。
コンセプト・バーを経営したりして。

エマさんのバーは5人も入ればきついなと思うくらいの小さな場所で、天井におっきいフックがついており、縄や、ムチや、ロウソクなどの定番道具が揃い、痛いことをされるのが好きな人と、人に痛いことをするのが好きな人が集まって来る。
みんな、普段はOLや先生だけどなんかイマイチ社会に馴染めてなさそうな危うさがある。
いっつも無邪気に、有刺鉄線てすっごいいいの、とか、好きな男の名前の焼きごてを買ったの、とか、と嬉しそうに話している、けっこうな変態さんたちだと思われる。

プレイする側には安全面での高い技術力と注意力が必要とされているので、経験を積んでいる人しかできないし、バーといえども基本みんなノンアルコールでいる。代わる代わる行われるSMプレイを、みんなで和気藹々と見守りながらお茶飲んだりカントリーマアム食べたり、やきうどん食べたりする、かなり妙な場所である。
また、そこでは男×女等の掛け合わせはあまり関係ない。ヘテロ同士のS×Mの組み合わせが、道具を使った加虐行為を通して性的に繋がる事も多いに起こりうる。

わたしはそこに、エマさんが緊縛されて、吊るされて、いじめられている所を見に行くのだ。

エマさんは、ちょっと縄が食い込んだだけで大きな声を出す。切なそうに、子供のように。
プレイが過激になってくると喚きながら叫びながら、あーん、ごめんなさい、許してください、ごめんなさい、と大泣きするのである。(しょっちゅう警察が様子を見にくるらしい)

その姿が何故かどうして、あまりにも切なく、かわゆく、愛おしく、込み上げるものがあるので、私もついつい興奮して参加してしまう。彼女の足や脛に噛み付くと、エマさんはそれだけで何度も果ててしまうのである。性器への刺激は一切なしで。

そして最後は「はあ、すっきりした〜」と幸せそうに笑い、温泉から上がったかのような表情でブランケットにくるまり、他のマゾさんたちにおかえりなさい、良かったねえ、うらやましいなあ、と迎えられる。

あのね、断っておくけれど、私は怒れるフェミニストである。
合意のない性行為や性暴力は許さないし、それを助長するような表現に対するゾーニングにも厳しい。
だけど、成人が合意と信頼の元で、隠れた場所で、純粋に自分の喜びのために、ひっぱたかれたり縛られたりすることに、何の問題があろうか。

勝手な推測だが、エマさんは子供の時に虐待されていたんじゃないかなとかちょっと思う。大人になっても当時の恐怖に引き戻されてしまうトラウマを、信頼のもと安全な場所で何度も再現することで癒される事があるのかもしれない。

また、ゲイのお兄さんから性的虐待を受けていたという友人が、一番苦しい記憶であると同時に、今の恋人と当時の様子を再現することが一番興奮するようになってしまったと話していた事も思い出した。

人間の性は想像以上に自由で、複雑なものなのだ。

わたしも大きな声をだして泣き叫んで自分を解放してみたいと思いながら、
誰にも甘えずスーツで働いている日々である。


またエマさんに会いに行く。

猫島虎雄

PROFILE

猫島虎雄

アジアに恋しているジプシー、愛犬家。女