COLUMN

2022.09.02

「東京で魔女になる方法」 by 猫島虎雄 第6回/パニック障害とリハビリとしてのSM

久しぶりのコラムになる(多分、2年くらい書いていなかったと思う)

なぜ長い間書いていなかったかと言うと、不眠症と、パニック障害と鬱をやっていたのである。

今現在は波もあるけれどもまぁ、7割回復した。未だ睡眠薬等は手放せずにいるが。



パニック障害闘病は、なかなか壮絶であった。

ネットで見る限り、私の発作は典型的なパニック障害のそれとは少し違うらしいのだが、何もないのに急に猛烈に死にたくなり、死ぬことを考えすぎて不安になり、呼吸困難になりぶっ倒れる、というものであった。

一番ひどい時では1日3回発作が出た。電車に乗ることも難しかった。

通院して薬をもらっていたのだが、精神安定剤や抗鬱剤、睡眠薬を飲むのは面白かった。



薬を飲むとよくなる気がしたので、私は薬に依存した。特に睡眠薬が「キマって」しまう体質であるらしく、医者に言われた量の3倍以上飲む、数種類一気に飲むなど、めちゃくちゃな飲み方をして幻覚を見たり(昔の恋人が枕元に座っていて、両手で小さな顔を撫でた。そのリアルな触り心地は今も思い出せる)、記憶なくいろんな人におかしなメッセージや脈絡のない写真などを大量に送りつけるなどして、まぁご迷惑をかけた。



自分は依存症や精神疾病とは、なんだかんだ無縁だと思っていたので、こんな立派などメンヘラの才能が眠っていたことは、正直自分でも意外だった。



無気力で体力も出なくて、何もしたくなかったが、薬を飲み、ひどい時は休み、転職などをしながらも、週5勤務と、SMバー通いは続けていた。



SMバー通い、というのは、過去のコラムにも書いたが、緊縛の縛られ役をすることである。



コツコツ続けていくうちに、「縛られて逆さ吊りにされてスパンキング」くらいまで楽しめるようになったが、(私はメンヘラだけでなく、マゾヒストらしい)これが何よりパニック障害のリハビリになった。

(これは、人には絶対に勧めない方法である)



苦しくないのか痛くないのかといえば、もちろん、かなり苦しくて痛い。

胸をギュウッと縄で圧迫されて、息ができなくなって、頭に酸素が回らなくなることは、パニック発作とかなり近しい。

でも、電車や会社で起きる発作と大きく違うのは、子供になって声を出してわんわん鳴けること、であった。



赤ちゃんや動物みたいな、なんの言葉にもならない、感情だけの鳴き。

子供になって、大声で、鳴いて呻ける場所が、成人した東京暮らしの大人にあるだろうか。



苦しくて、痛くて、わんわん鳴いて、ふっと縄が解かれてドッと血が巡る時の解放感よ。

地上に降ろされて縄を解かれた時、意識がもどるまでの暫くの呆然とした時間。

どんなに痛くても、苦しくても、何が起きても、本当は大丈夫なんだ。



わたしはずっと、声をあげて鳴きたかった。でも、社会に躾けられて声を失ってしまっていたんだ。





次は蝋燭にチャレンジしてみたい。

鬱病で無気力で、ここ半年間やりたいことなど何もなかった。

全てが色褪せて見えるようになってしまった私の、久々にできた楽しみである。



猫島虎雄

PROFILE

猫島虎雄

アジアに恋しているジプシー、愛犬家。女