FEATURE

2025.05.14

エツの人生の転機になった10の音楽

FREEZINEが選ぶ「人生の転機になった10の音楽」シリーズ。
第38弾は、バンド砂上の楼閣やその他様々なユニットでジャンルレスに活動するエツ!

もしもその音楽と出会っていなければ、いまの自分はない。人は誰しもが、そんな人生の転機となった音楽を持っているもの。そこでこのコンテンツでは、各界のFREEZINEたちに、自分史上において転機となった10の音楽を選んでもらい、当時のエピソードと共に紹介していただきます。選ばれた音の並びから、人となりが見えてくる。

Sex Pistols『Never Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols』

「God Save the Queen」を聴いた瞬間、後頭部を豪快にスパーン!とスリッパで引っ叩かれた様な衝撃を受ける。曲の最後で繰り返される“No future”という歌詞、幼少期から生きづらさを感じていた私にピッタリなフレーズだった。
反体制的な歌詞や奇抜なファッション…それは私の憧れの存在となった。
このアルバムと出会わなかったら反骨精神を持ち続けて生きる事も、自身のバンド『砂上の楼閣』が生まれる事も無かった筈。
そう思うとゾッとするような、しかしコレがキッカケで完全にフツーの道から外れたような、そんな気がしないでもない。
高校の後夜祭で「Anarchy in the U.K.」をステージで歌ったその日から、私のパンク人生が始まった。

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G.B.H.『Leather, Bristles, No Survivors And Sick Boys』

私が通っていた県立高校は何故かパンクスが多く、普通に金髪・モヒカン・ライダース・Dr.Martensを履いて登校する生徒が沢山居り、私もそんな1人だった。
その影響なのか覚えてないが、イギリス正統派ハードコアの重鎮であるG.B.H.のアルバムをよく聴いていた。Vo.コリン氏の佇まいがカッコ良く、分かりやすい曲の展開は割と影響を受けていると思う。
2019年新宿アンチノックでG.B.H.のライブを観た際、フロアはモッシュとダイブの嵐だったけど特に煽る訳でもなく、不思議と紳士的なのに熱くてシビれました。
自身もこんな熱量のあるライブやりたい…聴いてると未だに滾ってしまうアルバムです。

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THE MAD CAPSULE MARKETS『P.O.P』

本当に何回聴いたか分からない。
このアルバムは特にパンク色が強いのだが、とにかくベースの音が極悪非道。低音なんて完全無視、皆様が想像する「一般的なベースの音」とは程遠い。しかし意外とポップ且つメロディアスなフレーズで、ギターより存在感がある…とても衝撃だった。
知り合いや対バンした方々に「見た目と違って極悪」「初期パンクやハードコアっぽい」ベースの音だね、と言われる事がある私。
以前バンドやるならギター弾くぞ!と思ってた筈が、後に何故かベースを手にして現在に至るのはMAD初期の上田氏の影響かもと、この記事を書きながら気付いた(今更)
「ベース」という概念に縛られずとても自由な気がしたんです、多分。それは私がソロでやってる嗚咽民の音楽性にも影響してると思う。

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The Pop Group『For How Much Longer Do We Tolerate Mass Murder?』

このアルバム1曲目を聴いた時、素直に思った感想は「… 何だコレは」だった。
それまでパンクやハードコア等、比較的分かりやすいモノを聴いてたので尚更である。一体、何だコレは。
フリージャズ・ファンク・ポストパンク・実験音楽・ダンスミュージック等々、オモチャ箱をガッシャーンとひっくり返しワーイワーイと散々遊んで後片付けがメチャクチャ大変かと思いきや、案外スッとまとまってる…みたいな感じの音楽。
バイト代を握りしめ、渋谷のディスクユニオンで一万円弱で売られていたこのLPを「うわぁ…高い…」とドキドキしながら購入したあの日を今でも思い出す。
ジャンルに囚われず、ボーダーレスな音楽がやりたいと思うキッカケの1つとなったアルバムです。

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XTC『Black Sea』

XTCで、特によく聴いていたのがコレ。アルバムを通して、楽曲は一番聴きやすいような雰囲気があるけど実はかなりヒネくれてる。
パンク・ニューウェーヴ色の強い初期から、正に英国紳士の様な佇まいの後期…時間と共に変化していく様子が非常に興味深いし、特に素晴らしいのは曲のセンスと完成度。
絶妙な捻れ具合で展開していく曲でニヤッとさせたかと思いきや、正統派で良質なメロディをブチ込んでくる。この振り幅が凄くて、もはや異常な領域。ギターもメチャクチャ良い音なんですよね、リフも粋でインパクトがある。
ポップで良いメロディを生み出すのって本当に難しくてクリエイティブな事だと思う。自分もそんな曲を常に作りたい!と、未だに気合を注入されるアルバムです。

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NIRVANA『NEVERMIND』

ギタリストになりたくて、いかにもメタラーな店員にオススメされヘッドがメチャクチャ尖ってるフェ◯ナンデスのギターを手に入れた。
構成はシンプルで脳内にフッと余韻が残る、そんな凄い曲を作るカート・コバーンに憧れ『Smells Like Teen Spirit』を必死に練習した、が。
集中力が無く練習も長続きせず、弦が6本もあり大変…無理!と私のギター人生は一瞬で終了。
しかし数年後、何かに導かれたのかフと楽器屋へ入ってしまった。店員のおじさんに、弾いてみる?と3万円位のプレシジョンベースとピックを渡され適当にボーンとやった。勿論全く弾けない。
君、ベースとても似合うよ!と言われ、そ…そうですかね…弦が4本なら大丈夫かなぁと何となくベースを弾き始めてその一年後、現在の私の相棒であるFENDER USAジャズベースを手に入れたのであった。
もしギターを続けてたら恐らく今の私は無かっただろう。『NEVER MIND』を聴く度にフと思う。

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The Damned『Damned Damned Damned』

自分がライブする日は大体、ダムドを聴いている。このアルバムが多いかな。高校時代から聴いてるけど未だにテンション上がるし、トキメキと感動を毎回味わえる。
良い塩梅に潰れた音の粒感、全体的にドタバタしてる演奏や分かりやすく良質なメロディ、必要以上にシャンシャン金物を鳴らすドラムも良い。
トキメキと感動は音楽や芸術に於いて、否、人生に於いて非常に重要な感情であると思う。
自身が奏でている音楽が他の人にとってトキメキと感動を味わえるものかどうかは、正直なところ分からない。そんなモノは一切無いのかもしれないが、少なくとも自分はそんな音楽をやりたいなぁと思うし、ちょっとだけ意識してる。
だから私はライブの日、ダムドを聴くのかもね。

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eastern youth『感受性応答セヨ』

eastern youthを深く聴く様になったキッカケは、このアルバム。
自身は洋楽を聴く事が多く、言語問わず歌詞の響きは単純に「楽器の一部」みたいな捉え方をしていたので、歌詞の内容は特に重要視してなかった。それとは別で、特にメッセージ性の強い歌詞は押し付けがましいと未だに感じるし、言い方が悪いかもしれないがコール&レスポンスを勝手に求めてきてそれに応えないと不機嫌になるバンドを目撃した様な感覚になる。
しかしeastern youthの場合、特に突き放す訳でも寄り添う訳でもなく吉野氏の自問自答や葛藤や人生が綴られ(あくまでも私の解釈)、そこに季節や情景が重なり文学の様に美しい歌詞とメロディが私の心にブッ刺さった。
いつか自分もこんな歌詞や曲を作りたいなと思いながら切磋琢磨する日々は続く。

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bloodthirsty butchers『LUKEWARM WIND』

ブッチャーズで初めて聴いた時は正直あまりピンと来なくて、よく分からなかった。なので実は一度、CDを手放した事がある(黒歴史)
数年後、改めて聴いてみようと彼等のライブを観に行ったらそこには爆音で美しいメロディが鳴り響いており、心底感動した。
吉村氏の歌詞も独特で、言葉の響きや色んな角度で意味を捉える事が出来るのが良い。私自身も歌詞を書いてる時、日本語はメロディに乗せにくい響きだよなぁと毎回思うけど『歌詞は日本語』にこだわる様になったのは吉村氏の影響な気がする。
田渕ひさ子様加入後のブッチャーズも勿論、素晴らしい。しかし、何処か危なっかしくて不安定でザラザラ燃え上がる音と火傷しそうな熱量の高さ…ゴツい様で繊細な音を奏でていた3ピース時代のブッチャーズに、今もずっと憧れています。
特にこのアルバム、本当に美しいと思う。

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fOUL『Dostoevsky Groove』

fOULが活動休止中、私は砂上の楼閣というバンドを始動。彼等の自主企画『砂上の楼閣』という言葉の響きと意味が面白くて、そのまま自身のバンド名にしてしまった。
色んなバンドマンから「もしかしてfOUL好き?」と言われるし、fOUL谷口氏にも「砂上の楼閣で検索すると、よく出てくるのは君のバンドなんだね!」と言われた事がある。(何だかごめんなさい)
「私は求めない あなたのコンセンサス(合意)」
敢えてメロディに乗せにくい言葉を選んでるのか?と思う位に、思いつかない様な歌詞のオンパレード。それがメチャクチャ面白いし、昔のニューウェイヴ感やBEYONDS時代のUSハードコア要素もありつつ、とにかくユニーク。唯一無二とはこういう事だなと思う。
いつかfOULの企画『砂上の楼閣』に、自身のバンドである砂上の楼閣を呼んでもらう事が夢です。

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改めて「人生の転機になった10の音楽」を選んでみて。

自身がバンドをやりたいと思ったキッカケはパンクやハードコアだったのに、いざやってみたら何故か爆音エモな歌モノで…正直な話、自身が生み出す音楽がこんな風になるとは思わなかったなぁ。

砂上の楼閣、初期の頃。
何がやりたいのか分からない、ジャンル分けが難しい、とよく言われたものです。何が正解で間違ってるのか分からなくなり、落ち込んだり自信を無くした時期もあったけど。
今回「人生の転機になった10の音楽」を選んでみて、ここに自分の方向性が詰まってると妙に納得したし、改めて向き合う良い機会となりました。
FREEZINE、どうも有難う御座いました!

PROFILE

エツ

砂上の楼閣という名の3ピースバンドで、歌とベースを弾きながら作詞作曲をする人。
嗚咽民(一人ガジェット即興楽団)、エヌ(gloptin 嗚咽民 原田仁)、川サキ×嗚咽民等、様々なユニットでジャンルレスに活動中。
2025年5月14日(水)砂上の楼閣2ndアルバム『存在理由を破壊せよ遅かれ未来は青き屍』をNARROW GAUGE RECORDSよりリリース、5月23日(金)新宿WildSide Tokyoにてレコ発開催。

砂上の楼閣HP

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