COLUMN

2020.12.19

「職業・蟲役者」 by 梅原江史 第5回/Walk on the Wild Side

11月16日未明、泥酔で友人に自宅前まで見送ってもらった後にアパート二階の踊り場から柵を乗り越えて転落という嘘みたいな事故を経験しました。
柵の高さは自分の心臓の位置くらいの高さはあり、ちょっと信じられない事実です。
自宅アパートの脇に寝転がりながら左足がまったく動かない異変に気付き、自分で救急車を呼びました。
診断の結果、大腿骨螺旋骨折とのこと。
職場や親しい知人には妻が連絡してくれましたが、すべての近い予定を白紙にしてしまったということです。

搬送後、即手術。
医療が圧迫されていると報道される昨今、「しなくてもいい大怪我をしちゃったせいで余計な世話をかけさせちゃったな…」と自分を責めながら、入院という別荘暮らしをスタートしました。
初めての経験ですので、「回復までにはどのくらいの時間を要するのか」などなど、様々な情報を検索しました。
命に別状がなかったのが救いとはいえ、「回復までは決して簡単な道程ではないぞ」と。
しかしながら、これが不安だらけだったのかといえば、むしろ、何もできない自分の状況が逆に心境を身軽にさせてくれた。

ご存知の通り、実態の不確かなコロナ禍により多くの方がその影響に生活を脅かされている。
自分だって例外じゃありません。
何が正解かもわからないまま手探りどころか、何も手をつけられなく過ごした日々はたった一年足らずという暦の上よりも長く感じるひとは少なくない筈だ。
困っているひとにどんな手を差しのべることができるのだろうと悩みながら、よりによって自分で歩けないくらいの困ったひとに自分がなってしまったわけだ。
それまで抱えていた葛藤から一気に自分を遠くのほうへテレポーテーションした、そういう感じだ。

ひとは多くの情報の中から選別して未来の不安への拠所にする。
不安から安らぎを求める。
その安らぎに疑問を持つのだ。
正解を求めて違った考え方の人間を貶め合っていたあの頃にはもう戻らない。
それぞれの生き方でもいい、それぞれの考え方でいい。
手っ取り早い情報から手っ取り早く選ぶ未来よりも、予測できない現実を生き抜いたそれはきっとワイルドでおもしろいと断言する。

現在、医師が驚くスピードで回復へ向かっている自分を楽しんでいる。

PROFILE

梅原江史

インディーズバンド「MUSHA×KUSHA」のパフォーマー。
1998年結成以降、ライブ総数は2000本を超える。
踊りを担当する他、作詞の多くを手掛けており、MUSHA×KUSHAにおける精神的支柱として知られる。

MUSHA×KUSHA Webサイト

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