COLUMN

2021.12.14

「地獄のセルフレビュー」 by 印藤勢 第4回/『カミソリギターレディ』

1.「IZASARABA」

言わずと知れた、と書くと大袈裟かな。この曲のお陰で今のキャリアがあると言っても過言ではない。が、個人的には狙って作った感満載なので特筆すべきことはない。時代背景ありき、マイナーコードのリフと昭和歌謡ライクなメロディ+疾走感は大当たりするんじゃないかと睨んでたから。未経験Cや、シークレットメサイアは感覚で言えば同じチャンネルで作ってます。あざといよね。

2.「ラクダ」

ある意味、1曲目とは相反して"こういう楽曲こそが真骨頂"と思ってくれる人も少なからずいる。歌詞の世界観に引っ張られてスラスラっと作れた気がする。ライブでは滅多に演らない。でも、現行の俺たちならセットリストに加えても違和感ないかな。アウトロのギターはラクダの鳴き声(想像上)をイメージした。こぼれ話だが、大手レコード会社から声がかかった時、"ジプシーという単語は差別用語だから変えて欲しい"と言われて断った。

3.「カラスノイローゼ」

恋する男の子の破滅的願望を東京の侘しさに喩えてる。今となっては(芸風っちゃあ芸風だが)曲のスケール感と歌詞の生活感が絶妙だとは思う。痛々しい、というよりはアブナイ奴だな。まさに地獄です。地獄を共有することでしか生きられない。コーラスには恩師、ZIONG HEADの岡野さんが絶唱している。それもその筈、俺は彼らのThe Great Manという曲に感銘を受け、未だに指標としているから。

4.「ETIZEN THE DRAGON」

唯一のインスト曲。タイムリーな話をしておくと、こないだbachoのキンヤくんが俺たちのアンコール後、この曲をダブルアンコールしてくれた(演らなかったけど笑)。当時、日本海側に大量の越前クラゲが漂流していたニュースを観て、インスパイアされた。漁業・漁師が壊滅的な大打撃を喰らっている、ということでコーラスには"people crying"とオペラ調に差し込んだ。と書いたところで、インストちゃうやん…と思った。

5.「虹と悪魔」

テーマは3曲目と同じ破滅型恋愛。哀愁メロディにスクリーモよろしくな絶叫がミソ。この曲も滅多にライブではしないが、改めて聴き直してみると今のセットリストにはないテンポ・タイム感があるので、そのうち…まぁ気が向いたら演ります。自己嫌悪に陥るタイプって歌っててひたすら辛いし、聴いてて楽しいのかな?ふと思う。トリビアを一つご紹介するなら、リズムチェンジするシャッフルのパートで"rainbow,rainbow and devil"と囁いてたりします。音量小さいけどね。

6.「後悔サイレント」

福島県にあるバンド合宿施設で作った。寝起きに見た景色をそのまま描いている。コーラスにはSTANDING OVATION,COATREALの茂木くんが参加してくれた。最新作『大東京音像』のラストナンバーと同じく、ライブではなかなか再現不可能な曲。"絶望クリスマス"というタイトルでも良かったんじゃないか。しかしながら、テーマやモチーフ自体は現在の俺たちと大差ない。

改めて「カミソリギターレディ」を振り返ってみて。

"人生の転機になった10の音楽"でも紹介したHAWAIIAN6にヤラレタ!先越された!と思っていた当時、それなら俺たちは日本語でメタルの文脈に懐メロをマッシュアップしてみようと試みた結果、時流に乗れたんだと思う。17年前、戦友たちと駆け抜けた日々の思い出ばかりが蘇る。実は、今まさに制作段階の楽曲群の幾つかはこのアルバムを参考にしている。俺自身、芸術的嗜好性を求める反面、やっぱりザックリとしたロックバンドでありたい / 皆さんが歌ってくれてナンボです、という想いも強いので。繰り返しになりますが、素敵な機会を与えて下さったmiNamiさん、FREEZINEの皆様に多大な感謝を。

PROFILE

印藤 勢(インドウ セイ)

独身音楽家。猫が好き。新宿を根城にしている。